中国軍に関する国防総省の2020年の報告書では、海上民兵の船舶として挙げられているのは84隻にとどまり、いずれも南シナ海北部の海南島三沙市を拠点とする部隊に所属しているとされる。この部隊は2016年に設立され、南沙諸島で活動する目的で頻繁に資金支援を受けてきた。
ただ、エリクソン氏はCNNに対し、ウィットサン礁付近で最近目撃された船舶は海南島の部隊のものとは異なるように見えると述べ、フルタイムで活動する民兵の船舶が従来の想定より多い可能性を示唆した。
またエリクソン氏と同僚のライアン・マーティンソン氏は先月後半、フォーリン・ポリシー誌に寄稿し、オープンソースの情報を駆使してウィットサン礁にいる中国船の一部を追跡したところ、中国南部広東省の台山から来ていることが判明したと指摘した。
ウィットサン礁にいる巨大トロール船少なくとも7隻は、「これまで育成・配備された中で最も高度なPAFMM部隊」の一員である可能性があるという。
両氏によると、自動識別システムのデータを用いた調査の結果、ウィットサン礁にいる船舶は同礁にあるユニオン堆(たい)のほか、スビ礁やミスチーフ礁といった南沙諸島の他の地域でも哨戒活動を行っていたことが判明した。両礁は中国軍によって造成され軍事拠点化されている。
海上民兵の目的は?
欧米の専門家によると、中国は海上民兵や非正規海軍の概念により、人民解放軍本体を投入せずに膨大な数の領有権を主張することが可能になる。
エリクソン氏やマーティンソン氏が言及するようなリーダー役の船舶は比較的少数かもしれないが、ウィットサン礁で見られるように、彼らは数百隻規模の船団を率いることができる。
米ランド研究所の防衛アナリスト、デレク・グロスマン氏は昨年、「こうした典型的な『グレーゾーン』の活動の目的は、大量の漁船で敵を圧倒することで『戦わずして勝つ』ことにある」と指摘した。
フィリピン大学海洋問題研究所のジェイ・バトンバカル所長は米公共ラジオ(NPR)とのインタビューで、「彼らは今、単に漁船を展開するだけで実質的にウィットサン礁を占領している」と説明。
「実は中国の戦略の目的はそこにある。こうした徐々にエスカレートする動きを通じ、南シナ海全域で実効支配と優位性を確立する狙いだ」と述べた。