香港(CNN) 中国とロシアがこのほど合同海軍演習を実施し、軍艦10隻からなる艦隊が日本の本州をほぼ一周した。両国はこれについて、不安定な地域で安定を確保する方策だと強調している。
しかし専門家は、演習はそれとは反対の効果を招く公算が大きいと指摘。地域の緊張を再燃させるとともに、中国の強硬姿勢に対抗するため防衛費増額が必要との日本政府の主張を強化する結果になる可能性があると指摘する。
中ロ海軍による初の合同パトロールと称する今回の航行では、艦隊が本州と北海道を隔てる津軽海峡を通過した後、日本の東の沖合を南下し、九州沖の大隅海峡を抜けて中国に戻った。
大隅海峡と津軽海峡はどちらも「公海」とみなされ、外国船の通過は許可されているものの、この動きは日本国内で注視された。
米国防総省の元当局者で、シンガポール国立大学リークアンユー公共政策大学院の客員研究員を務めるドリュー・トンプソン氏は今回の航行について、「中国が日本に脅威を及ぼす可能性があり、防衛費増額と即応態勢の強化が必要だという日本の従来の結論を強化するだろう」と述べた。
日本の防衛省は25日の声明で、先週1週間続いた演習を「特異」な行動と形容した。
中ロの艦隊は両国の艦船それぞれ5隻で構成され、駆逐艦やフリゲート、コルベット艦、支援艦が参加していた。
中国軍は23日、両海軍は東シナ海で分かれたと説明。中国人民解放軍北部戦区で海軍副司令官を務める柏耀平少将は声明で、「今回の合同訓練と合同航行は新時代に向けた中ロの包括的戦略協力パートナーシップを一層発展させ、双方の共同作戦能力を効果的に高めた」と評価した。
ロシア国防省は合同パトロールの目的について「ロシアと中国の旗を掲げ、アジア太平洋地域の平和と安定を維持するとともに、両国の海洋経済活動の便益を守ることだ」としている。
日本の軍備増強
中国政府が日本の実行支配下にある島々に対し主権を主張しようと動く中、中国と日本の間の緊張は近年高まっている。
中国は台湾への軍事的圧力も強化しており、台湾周辺に軍用機数十機を送り込んだ。日本の当局者は以前、台湾の安全保障を日本と結びつける考えを示し、日本のエネルギーの90%は台湾周辺を通って輸入されていると述べていた。
日本は軍事費は中国に比べ少ないものの、防衛力の大幅強化に動いており、最新鋭戦闘機F35の導入や護衛艦の空母化を進めている。
また、先端技術を積んだ駆逐艦や潜水艦の導入も進めている。いずれも日本沿岸を遠く離れた海域まで戦力を投射することが可能だ。
日本の自衛隊のリーチの広さが明らかになったのは25日。F35搭載仕様に改修予定の艦船の一つ、ヘリコプター搭載護衛艦「かが」が南シナ海で米海軍の空母打撃群と2国間演習を実施した。中国は南シナ海のほぼ全域に主権が及ぶと主張している。
また今夏には、日本の海上自衛隊が、空母「クイーン・エリザベス」を中心とする「英空母打撃群21」の構成艦や米海軍艦と太平洋で共同訓練を行った。
中国政府はこれらの出来事を注視しており、ロシアとの合同艦隊は中国にもパートナーがいるという中国からのサインだと、英ロンドン大キングスカレッジのアレッシオ・パタラーノ教授は指摘する。
中国の「偽善」
中ロの合同パトロールは最後に大隅海峡を抜けるルートを通ったほか、週の前半には本州と北海道を隔てる狭い津軽海峡を通過した。このルートも大きな注目を集めている。
中国政府は米海軍などが台湾と中国本土を隔てる台湾海峡を抜けるとき、不安定化を招く動きだと非難しているからだ。
たとえば、米国とカナダの軍艦が台湾海峡を今月通過した後、中国軍東部戦区は両国が「問題を起こす」目的で共謀し、同海峡の「平和と安定を深刻な危険にさらしている」と批判した。
しかも、最も狭い場所でも160キロの幅がある台湾海峡は、日本の島々の間の水路に比べて規模が大きい。大隅海峡は最も狭い場所では27キロに過ぎない。
中ロの軍艦は国際法に違反していたわけではないものの、中国国営テレビで放送されたニュースでは、これらの艦船が日本の領土の近くまで来ている様子が映っていた。
トンプソン氏は、中国はひとつの考え方を支持しつつ、それと反対の行動を取ることはできないと指摘する。
同氏は中国政府の指導部を念頭に、「規範を守るか、パワーポリティクスを支持するかのどちらかだ」と説明。「今回の件で彼らの外国に対する激しい言説は極めて偽善的なものになった」と述べた。
従って、今回の件が中国とロシアにとって良いことなのだとすれば、台湾海峡やましてや南シナ海を航行する米国やカナダなどの海軍にとっても好都合なはずだ。
「彼らはこれがまさに受け入れられている国際規範なのだということを証明している」(トンプソン氏)