OPINION

プーチン氏、5月9日に勝利のパレード計画 何があろうと挙行

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来月の「戦勝記念日」までにプーチン氏にはウクライナ侵攻の具体的な成果が必要となる/SERGEI GUNEYEV/AFP/Sputnik/AFP via Getty Images

来月の「戦勝記念日」までにプーチン氏にはウクライナ侵攻の具体的な成果が必要となる/SERGEI GUNEYEV/AFP/Sputnik/AFP via Getty Images

(CNN) ウクライナ軍が首都キーウ(キエフ)の攻略を目指すロシア軍を撃退した際、何やら興味深い手荷物が残骸の中にあるのを発見したという。ロシア軍の引き上げた後に放置された弾薬や装甲車両に紛れて、さらには複数の軍用車からも出てきたそれらの手荷物の中身は、同軍がパレードで着用する制服だった。「彼らは2日でキーウを取り、ここでパレードをするつもりだった」。ウクライナ軍地上部隊のオレクサンドル・フルゼビッチ副参謀長はそう語る。

フリーダ・ギティス氏
フリーダ・ギティス氏

ロシアのプーチン大統領がウクライナの首都でパレードを開催することはできなかったが、パレード自体は間もなくモスクワにやってくる。そして戦場で何が起きようと、同氏は今から3週間後のそのイベントで勝利を宣言する公算が大きい。

5月9日はロシアにとって最も重要な国民の祝日である「戦勝記念日」に当たる。第2次世界大戦末期のドイツ降伏を祝う日だ。ロシア政府はこの日を利用し、70年以上にわたってナチスに対する見事な勇敢さを称(たた)えてきた。しかしそれと同様に重要なのは、ロシア国民並びにロシアの友好国と敵対国に対して等しく、ロシア政府の指導部が大規模かつ強力な権限を握っていると宣言することだった。

戦勝記念日は何よりも軍事力に関わるイベントであり、戦争の最中にあっては自軍の勝利を誇る場として活用する以外の選択肢はほとんど考えられない。たとえロシア国民が現在それを「戦争」と呼ぶのを禁じられ、国を挙げてのプロパガンダにより、虚偽の主張にもかかわらず計画通り完璧に進展していると伝えられていてもだ。

米諜報(ちょうほう)機関の評価からロシア外交の専門家の分析、さらにごく普通の常識に照らして考えても、プーチン氏は5月9日を使ってある種の期限を自らに課すものとみられる。ウクライナでの戦争に勝利する期限ではない。それは間に合いそうにない。そうではなくて、ロシアが何かを勝ち取ったことにするための期限だ。大掛かりで重要な何かを。

向こう3週間の軍事行動は、ウクライナ東部にはっきり照準を絞ったものとなるだろう。ロシアと国境を接する東部のドンバス地方にはロシア系住民とロシア語話者が集中し、ロシアの支援を受けた分離派勢力がウクライナの国家に対して8年にわたり戦争を仕掛けている。

プーチン氏はこの地での成功によって面目を保とうとするだろう。明確な勝利をロシア国民に届ければ、自身が今なお偉大なリーダーであると主張することができる。自らの「特別軍事作戦」はロシア国民に大変な苦難をもたらしたが(ウクライナが被った災厄については言うまでもない)、それに見合うだけの価値があったと訴えることも可能になる。残念ながら、同氏が死に物狂いで勝利を求めるという状況から、次の3週間でウクライナには一段と悲惨な死と破壊がもたらされる公算が大きい。

これまでのところ、プーチン氏の戦争は望んでいたものとほぼ真逆の結果を導き出している。ウクライナの国家意識の高まり、北大西洋条約機構(NATO)と西側諸国との結束の強化、ロシアの軍隊と戦略に対するイメージの低下などなど。とはいえ、プーチン氏はこうした事実を国民の目から隠すことにほぼ成功している。独立系のメディアが閉鎖され、真実を伝えるジャーナリストらも国外脱出を余儀なくされているためだ。これによりほぼすべてのロシア人が、国家の統制下にあるメディアからしか情報を得られなくなった。こうしたメディアはプロパガンダ機関と大差ない。

しかしいくら独裁者であっても、自身の国内の立ち位置は気にせざるを得ない。仮にロシア国民がプーチン氏のウクライナ侵攻について、これまでの実情通り大失敗とみなすのであれば、同氏が政権の座を維持する力は弱まる可能性がある。

たとえ国家が情報を統制していようと、一部の事実はいずれ隠しきれなくなることもあり得る。帰還した兵士らは、自分たちが何を経験したかを友人や身内に語るだろう。戻ってこない兵士は数千人に上る。ほんの一握りであれ、まだ国外から情報を得られる国民もいるかもしれない。一方、制裁や多数の企業によるロシア撤退で苦境に陥った国民は、近いうちに経済的な限界点に達する可能性がある。どちらにせよ、徐々に真実は広まっていくだろう。

だからこそ、プーチン氏は自身の軍事作戦を勝利に見せようと躍起になっている。

5月9日、プーチン氏はまず間違いなく赤の広場に立つ。ステージが設けられるのはレーニン廟(びょう)の前だ。そこにはソ連の指導者ウラジーミル・レーニンの防腐処理を施された遺体が、90年以上にわたって展示されている。壇上のプーチン氏は、自らにとっての西部戦線が万事順調であるかのようなふりをするはずだ。閲兵式にも儀式張って望むことだろう。軍がウクライナに大規模展開する中、何人の兵士をこちらに回せるのか定かではないが。

ショイグ国防相が姿を見せるかどうかはその時に明らかになるだろう。昨年まで同相は大役を担っていた。胸にはシリアとチェチェンでの血みどろの勝利で得た勲章が光り輝いていた。最近その名声はすっかり地に落ち、死亡したとの噂(うわさ)も絶えない。

その日、プーチン氏はドンバス地方に関する発表を行う公算が大きい。おそらく、同地方を「ナチス」から「解放」したと宣言するだろう。同氏はナチスがウクライナを支配していると主張する(ウクライナの大統領がユダヤ人であることを考えれば、話にならないほど見当外れの主張だ)。もしかするとロシアは、見せかけの住民投票を実施するかもしれない。2014年のクリミア半島併合後、そうしたように。仮にロシアの公開した投票結果で、ドンバス地方の住民の大半がロシア編入を望んでいることが示されたなら、最近の独立した調査を思い出すといい。そこではそうした主張を支持しない結果が出ていた。

21年の戦勝記念パレードから間もなく、プーチン氏は論文を発表し、ロシア人とウクライナ人は同じ民族だと主張した。それは不吉な兆候だった。同氏がウクライナ人のアイデンティティーと国家、さらには国境までをすぐにも消し去ろうとするのではないかとの懸念を呼び起こした。ドンバス地方はウクライナの中でもプーチン氏の歴史的分析に共感する地域の一つと目されていたが、地元住民の大半はそうした見方を完全に拒絶した。CNN単独の世論調査によれば、ロシア人とウクライナ人を「1つの民族」とする考えに賛同したのは住民の5分の1に満たなかった。それでもそうした考えは依然として、プーチン氏の戦争の主要な要素もしくは論拠となっている。

プーチン氏にとってもう1つの戦略的勝利は、南東部の港湾都市マリウポリの陥落により訪れるかもしれない。同市を落とすことで、ロシア軍は回廊地帯を確立し、支配下に置くドンバス地方とクリミア半島の間をつなごうとしている。実現すればウクライナ国内の広範な地域において、ロシアの支配力が強化される。それは単なる象徴的な勝利よりもはるかに重要な意味を持つ。主権国としてのウクライナにとっては心理的、戦略的、経済的な打撃となるだろう。

そのような勝利を5月9日までに確実に収めようと、プーチン氏はほぼ間違いなく、さらに激しい攻勢をウクライナ東部に対してかけるだろう。ウクライナ人は容赦のない凶暴さと向き合うことになるはずだ。同国のゼレンスキー大統領はCNNのインタビューに答え、戦争終結のために東部の領土を譲り渡すつもりはないと語った。もしドンバス地方が落ちれば、プーチン氏は再びキーウを標的にするというのがゼレンスキー氏の見方だ。

新たな猛攻にウクライナが抵抗するには、西側諸国からのさらなる支援が必要になる。しかも迅速な支援が求められる。3週間で勝利宣言を行いたいとするプーチン氏の願望は、より大きな苦難を引き起こすだろう。だが一方で同氏は、潜在的な危険にも晒(さら)されている。何を発表するにせよ、5月9日に語られるのは信用に足る内容でなくてはならない。そうでなければ、自身が極めて脆弱(ぜいじゃく)な状況に置かれるということをプーチン氏は理解している。

結局のところ、パレードが行われるのはモスクワであって、キーウではないのだ。

フリーダ・ギティス氏は世界情勢を扱うコラムニストでCNNのほか、米紙ワシントン・ポストやワールド・ポリティクス・レビューにも寄稿している。記事の内容は同氏個人の見解です。

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