抵抗の象徴
ロシア軍の容赦ない攻撃が何週間も続く中、マリウポリはウクライナの抵抗のシンボルとなった。街の大半はすでにロシア軍の手に落ちたが、抵抗軍はアザフスターリ製鉄所に立てこもった。そこには一時期1000人近い民間人も避難していた。ウクライナ側が言うには製鉄所内の状況は厳しく、食料や水は徐々に底をつき、数百人の負傷者が適切な治療も受けられないまま取り残されていた。
これまでウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領はマリウポリの死者を「数万人」としてきたが、地方軍政官が先月語ったところでは最大2万2000人に上るという――もっとも、戦火にあっては死者数の特定は難しい。マリウポリ市長の推定では、街のインフラの90%が損傷し、40%が修復不可能な状態だ。
破壊されたマリウポリの姿は、ロシアがウクライナで武器を無差別に使用していることを象徴し、シリアのアレッポやチェチェン共和国の首都グロズヌイといった町の壊滅状況と驚くほど酷似している。
親ロシア分離派の支配地域を越え、より広範なドンバス地方の支配をもくろむロシアにとって、マリウポリの制圧は重要だ――こう語るのは、ワシントンを拠点とするシンクタンク「新アメリカ安全保障センター」でロシア軍を専門とするマイケル・コフマン氏だ。
「主要都市の実効支配なくして、ドンバス制圧を宣言するのは非現実的だ」と、同氏は先月CNNにメールで語った。
マリウポリが陥落すれば、ドンバスの他の地域へロシアの兵力と物資がなだれ込むのは必須だとコフマン氏は言う。
だがロシアがマリウポリを掌握し続けるには資源も相当必要になる。ウクライナ東部の攻撃では、ロシアも可能な限り部隊を投入しなくてはならなくなるだろう。すでにロシアはウクライナの他の地域から部隊を引き揚げ、この地域に再配備している。
ルハンスク州とドネツク州の前線では今も砲撃と空爆が続いているが、ウクライナ軍はロシア軍による制圧の試みを退けていると主張する。
専門家いわく、ロシア軍がマリウポリ壊滅を図ったのは支配を容易にするためだった――ロシア軍の戦闘指揮を任された人物、アレクサンドル・ドゥボルニコフ将軍の経歴を考えれば、これもうなずける。
ドゥボルニコフ将軍は2000~03年、チェチェンにおけるロシアの鎮圧活動で師団長を務め、15~16年にはシリアでロシア軍の指揮を執った。いずれもロシア軍は死傷者が出ることもほとんどお構いなしに民間地域を爆撃し、破壊的な爪痕を残した。
「同将軍は基本的にシリア第2の都市アレッポを壊滅し、この世から消し去った。戦略は単純明快だ。命あるものはすべて爆撃し、民間施設――病院や学校――を標的にした後、残っているものを根こそぎ奪う」と言うのは、英国を拠点とするシンクタンク「王立国際問題研究所」のオリシア・ルツェビッチ研究員だ。
ルツェビッチ氏は先月、戦闘のさなかも「すでに同じような戦略がマリウポリで展開されている」と語った。
すでにウクライナ軍諜報(ちょうほう)部も、ドゥボルニコフ将軍がマリウポリ占拠の過程で行われた民間人に対する戦争犯罪を看過したと非難している。