兵士たちの反応
その将校がCNNに語ったところでは、なぜ自分たちがウクライナ侵攻に駆り出されたのか疑問に感じたり、混乱したりした兵士は将校だけではなかった。
だが中には、やがて戦闘ボーナスがもらえると喜ぶ者もいたという。
「『あと15日ここにいればローンが返済できる』と言っていた者もいた」
数週間後、その将校は修理が必要な兵器に同行する形で後方に配備された。
そこで実情を詳しく知り、じっくり考える時間と気力ができたという。
「そこには無線受信機があって、ニュースを聞くことができた」と将校はCNNに語った。「それでロシア国内の店が営業を停止し、経済が崩壊していることを知った。そのことに罪悪感を覚えた。だがそれ以上に、ウクライナに来たことに罪悪感を感じた」
将校は決意を固め、自分にできることはひとつしかないと悟った。
「ようやく力を振り絞って司令官のところへ行き、除隊を願い出た」
始めのうち、司令官は申し出を却下し、兵役を拒むことはできないと告げた。
「軍事裁判もあり得ると言われた。戦闘拒否は裏切りだと。だが私は譲らなかった。司令官は紙とペンをよこした」。将校はその場で除隊願いを出したという。
相次ぐ「リフューズニク(戦闘拒否兵)」の報告
厳しく統制されたロシア国内のメディアでも、戦闘拒否兵のニュースは他にも報道されていた。
「ロシア兵士の母の委員会連合」のワレンチナ・メルニコワ事務局長の話では、第1陣として出兵した部隊がウクライナから帰還すると、苦情や懸念の声が数多く寄せられたそうだ。
「兵士や将校は、前線には戻れないと言って除隊願いを出した」と、メルニコワ氏はCNNに語った。「主な理由のひとつは精神状態、2つめが良心の呵責(かしゃく)だ。除隊願いを出す兵士は今も後を絶たない」
1989年に結成された同組織を率いるメルニコワ氏によれば、どの部隊にも除隊願いを出す権利があるが、一部の司令官が却下をしたり、兵士に脅しをかけたりする場合があるという。
同団体では、除隊願いの書き方を兵士にアドバイスしたり、法的支援を行ったりしている。
ウクライナ国防省情報総局は、南部軍管区のロシア第8陸軍第150自動車化狙撃師団をはじめ、複数のロシア部隊で兵士の60~70%が兵役を拒否していると報告した。
CNNはこの数字を確認できていない。
メルニコワ氏は、ロシア国内でもウクライナでの戦闘を拒む兵士の報告例が「多数」寄せられているとCNNに語ったが、法的および安全上の懸念から詳細は控えた。
人権活動家で、ロシア徴集兵の支援団体を運営するアレクセイ・タバロフ氏は、除隊した兵士2人から個人的に相談を受けたとCNNに語った。
「彼らもまた戦闘を拒んで帰還した。相談を受けたのは2人だが、彼らが除隊した旅団には他に約30人の戦闘拒否兵がいた」とタバロフ氏はCNNに語った。
タバロフ氏によれば、兵士たちは除隊願いを出すにあたり、契約に同意した際に対ウクライナ特別軍事作戦に参加することには同意していなかったことを理由に挙げたという。
ロシア軍では無許可離脱は軍事犯罪として禁錮刑が科される可能性がある。だが契約に基づく兵士は離脱の理由を説明すれば、10日以内に除隊する権利が認められている。
「こうした現象は大規模だとは言えないが、かなり顕著だ。他の組織からの報告と間接的に聞いた情報を合わせれば、その数は推定1000件以上にのぼる」とタバロフ氏はCNNに語った。
同氏の話では、ロシアでは今も新兵募集が行われているという。新兵は将来への展望が少ない貧しい地域の出身者であることが多い。
戦争が始まって以来、ウクライナでは数千人規模でロシア兵が命を落としている。ウクライナ軍の推定では、ロシア軍の死者は2万2000人以上。ロシア国防省が最後に死者を発表したのは3月25日で、この時の数字は1351人だった。
CNNは最新情報をロシア国防省に問い合わせたが、返答はなかった。
CNNの取材に答えた将校は、現在家族とともにいる。
「この後どうなるのだろう――わからない」と彼は言う。「だが、家に戻ることが出来てうれしい」