求婚断られた男が女性殺害 暴力の実態、アラブ社会に衝撃 エジプト
アブダビ・カイロ(CNN) エジプトで若い女性が白昼堂々、男に路上で殺害される事件があり、アラブ社会が衝撃を受けている。この事件は、同国のジェンダーに基づく暴力の実態を浮き彫りにした。
エジプト検察によると、マンスーラ大学の学生だったナイラ・アシュラフさん(21)は今月20日、大学前の路上で、結婚を申し込まれて断った相手の男に刺殺された。容疑者の男は現場で逮捕された。
アラブ諸国では、男が大学前で女性に襲いかかる現場をとらえた防犯カメラの映像が出回った。アシュラフさんの家族の弁護士はCNNの取材に対し、これがアシュラフさん殺害現場を映した映像だったことを確認した。
エジプト検察によると、男は計画殺人の罪に問われている。CNNは、容疑者本人や家族に取材することはできなかった。
女性の人権に詳しいエジプトの専門家によると、同国ではジェンダーに基づく暴力が横行しているにもかかわらず、社会的な制約や法的な制約のため、適切な対応ができない状況が続いている。
エジプトの人権団体EIPRの専門家ロブナ・ダーウィッシュさんは、「ナイラさんの殺害は、決して特殊な事案ではない」とCNNに語り、それでも「女性に対する暴力が報じられることは増えた」と言い添えた。
そうした事件については国が適切に記録していないことからデータが不足しているとダーウィッシュさんは話す。それでもほぼ毎月のように、女性に対する暴力や人権侵害がニュースになり、「危惧すべきパターンが見える」という。
アシュラフさんが殺害されて以来、アラブ諸国のSNSでは「ナイラ・アシュラフのために正義を」と訴えるハッシュタグがトレンドに浮上している。
殺害されたアシュラフさんの父のアシュラフ・アブデルカデールさんがCNNに語ったところによると、容疑者の男はアシュラフさんに何度も結婚を申し込んで断られていたという。さらに、男はSNSの偽アカウントを開設してアシュラフさんを追いかけていたとされる。このためアブデルカデールさんは4月に接近禁止命令を出すよう申し立てていた。
「娘は結婚を望んでいなかった。キャリアを追求して客室乗務員になりたいと思っていた」とアブデルカデールさんは語る。
ダーウィッシュさんは、本人も家族もアシュラフさんを守るためにあらゆる措置を講じたにもかかわらず、「またしても、社会制度や法制度が機能しなかった」と憤る。
中には殺害された責任を被害者に押し付けようとする論調もある。元テレビ司会者のマブルク・アッテヤさんはSNSに投稿した動画の中で、男性に殺されたくなければ女性は体を覆い隠す必要があると主張した。
「女性や少女は誘惑を止めるために、覆い隠してゆったりした服を着るべきだ。自分の命が大切だと思うのなら、自分を求める相手に殺されないよう、完全に覆った姿で外出しなさい」
この発言に対してSNSでは憤りの声が噴出し、アッテヤさんの逮捕を求めるキャンペーンが展開されている。
ダーウィッシュさんによると、性的嫌がらせ防止の法律は厳格化の方向に向かっているが、警察や社会による執行が不十分なため、多くの女性が法的支援を求められずにいるという。
国営メディアによると、エジプトでは嫌がらせが法律で禁止されており、昨年、性的嫌がらせに対する罰金や法定刑が引き上げられた。
ロイター通信の報道によると、昨年はSNSで収入を得るためにダンスや歌の動画を投稿して何百万ものフォロワーを募った女性9人が、家庭の価値観を侵害した罪に問われて起訴された。