プーチン氏の「私兵」ワグネル、著しい士気低下 ロシア失速に伴い
刑務所での採用
9月には、ロシアの刑務所で受刑者をワグネルに勧誘しているとみられるプリゴジン氏の動画が浮上した。プリゴジン氏が提示した条件は、ウクライナでの6カ月間の戦闘との引き換えに恩赦を与えるというものだった。
一時はロシア有数のプロフェッショナルな部隊と考えられていたワグネルにとって、これは数カ月前には考えられなかった動きだ。
こうした募集方法について、ワグネルの元指揮官ガビドゥリン氏は「苦肉の策」と評する。
プリゴジン氏が刑務所で進めているとみられる採用活動は、受刑者を戦闘に動員しようとするロシアの幅広い取り組みとも重なる。受刑者に提示される月給は数千ドルで、死亡した場合には遺族に数万ドルが支払われる。
ワグネルの同僚にとっても、敵側のウクライナにとっても、これは懸念すべき状況だ。
ウクライナ検察のユーリ・ベロウソフ氏はCNNに対し、「(ワグネルは)誰でもいいからとにかく派遣する構えだ」「プロフェッショナルかどうかという基準はもう存在しない」と指摘した。
ロシアの戦争犯罪を捜査しているベロウソフ氏は、緩い採用基準が戦争犯罪の深刻化につながると懸念を示す。
刑務所からの直接採用は新しい試みだが、ガビドゥリン氏によると、犯罪歴自体は以前からワグネルへの採用の妨げになっていなかった。ガビドゥリン氏自身、殺人罪で3年間服役した経験がある。ワグネルの著名な指揮官の中には、服役後に世界各地で転戦した者もいるという。
内なる敵
ウクライナでのワグネルの苦境はより大きな問題を引き起こしている。組織内の不満だ。給与と仕事内容の魅力が売りの組織にとって、これは死活的な問題となる。
ウクライナの情報機関は8月、傍受した携帯電話の通信をもとに、ワグネルの兵士の「士気や心理状態の全般的な低下」を指摘した。ウクライナ国防情報当局の報道官が明らかにした。こうした傾向はロシア軍の中に広く見られるという。
ワグネルの採用条件が緩和されている点からも士気低下がうかがえるほか、「ワグネルでの戦闘に志願しようという真のプロフェッショナルな兵士」の数も減少している。
以前の同僚とほぼ毎日話しているというガビドゥリン氏によると、こうした士気低下の背景には「全般的な戦闘体制への不満、(ロシアの指導層が)適切な判断を下せていない、戦闘体制を整備できていないという不満」がある。
助言を求めてガビドゥリン氏に連絡してきた傭兵の1人は、指導部の無能さに耐えられなくなったと語り、「限界だ。もうあそこには行かない。もう参加しない」と訴えた。
ロシアがウクライナで勝利する見込みが薄れ、前向きな戦果を主張する望みさえ少なくなる中、ロシアの傭兵としての生活には以前ほどの魅力がなくなっているのが実情だ。
ウクライナ検察のベロウソフ氏は、「給料が仕事に見合わなくなったのかもしれない」と指摘した。
ウクライナの前線から相次ぎ届く動画の一つからは、ワグネルの戦争の陰惨な現実が如実に浮かび上がる。CNNに提供されたその映像は、ワグネルの作戦の様子を捉えたものとされる。
映像では、戦死したワグネルの傭兵が安らかと言ってもいい様子で横たわり、左手で黒い土を軽くつかんでいる。周囲の戦場には煙が立ちこめ、遺体や炎上した装甲車の残骸を覆っている。時折、煙を貫いて銃声が響く。
「すまない、兄弟。すまない」。死亡した兵士の同僚はそうつぶやき、激しい戦闘で上半身裸になった遺体の背を軽くたたいた。「ここから離脱しよう。もし彼らが撃ってきたら、今度は我々が彼の隣に倒れることになる」