プーチン氏の「私兵」ワグネル、著しい士気低下 ロシア失速に伴い

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2015年、ワグネルに参加しシリアで戦っていた当時のガビドゥリン氏/Marat Gabidullin

2015年、ワグネルに参加しシリアで戦っていた当時のガビドゥリン氏/Marat Gabidullin

経験不足

戦闘開始から7カ月あまりが経過する中、ウクライナにおけるロシア軍の戦いぶりには厳しい光が当たっている。ロシアの戦果は開戦当初のプーチン氏の野心的な目標に比べれば小さなものだが、払った犠牲は大きい。前線の部隊は壊滅し、兵力の多くや極めて重要な経験が失われた。

ワグネルの元指揮官であるガビドゥリン氏は19年に組織を離れた後、在籍当時を振り返る回想録を出版した。同氏は傭兵とロシア正規軍を区別する要素の一つとして実戦経験、もう一つの要素として報酬を挙げる。

「これらの傭兵組織の中心には常に、何度も戦争をくぐり抜けてきた極めて経験豊富な人材がいた」と同氏は語る。

ガビドゥリン氏はソ連時代末期に空挺(くうてい)部隊の下級将校として従軍した後、ロシアによる14年のウクライナ東部侵攻を機に軍隊生活に復帰した。ワグネルの中心人物の多くはガビドゥリン氏と同様、ウクライナやシリアで戦った経験をおそらく持ち、大半の正規兵にはない貴重な実戦経験を積んでいるとみられるという。

「彼らは正規軍よりも重みのある重要な経験を積んでいる。正規軍を構成するのは契約書に署名せざるを得なかった若い兵士たちであり、何の経験も持っていない」(ガビドゥリン氏)

ワグネルを始め、ウクライナに展開するこれらの準軍事組織がロシアにとって貴重な存在であるのはそのためだ。

ワグネルを監視するウクライナ国防情報機関の報道官によると、ウクライナでは現在、ワグネルとつながりのある傭兵少なくとも5000人がロシア軍と活動を共にしている。フランス情報機関の情報筋もこの数字を裏付け、ワグネルの戦闘員の一部はウクライナでの作戦を支援するためアフリカを離れたと指摘した。

ウクライナ国防省によると、ロシアは強襲部隊としてワグネルの戦闘員に頼る場面がますます増えているという。ワグネルの要員はロシアの公式の死者数には算入されず、存在すら否定される作戦に投入される。プーチン氏にとって国内で政治的に敏感な死傷者数の問題をワグネルが引き受けているのだ。

米国防当局の高官は9月、「ワグネルはウクライナで多大な損失を出している。特にやはり、若い経験不足の戦闘員の死者が多い」との見方を示した。

ガビドゥリン氏によると、ワグネルの部隊が活用される背景には、「米ドルでロシアの平和を買う」という単純な計算がある。

傭兵の月給は最大で5000ドル(約73万円)に上る。

ウクライナ国防当局高官の話や、ウクライナ当局が開戦以来ワグネルについて収集してきた情報によると、ウクライナの戦車や部隊を壊滅させたワグネルの戦闘員には全額米ドルのボーナスまで支払われているという。

英国防省によると、ワグネルの戦闘員はほぼ通常の部隊として前線の特定の区域に配置されることもあり、ウクライナで別個の限定的な作戦に従事していた以前の状況からは大きな変化が見られる。

ウクライナの当局者はまた、ワグネルがウクライナの前線の穴をふさぐ役割に使われる場面が増えていると指摘。米国防当局高官もこれを確認し、バフムート制圧を目指す攻勢に集中投入されているチェチェン人戦闘員などとは異なり、ワグネルは各地の前線に投入されていると付け加えた。

このため、兵たん面で大きな課題が生じている。ウクライナがロシアの兵たんへの攻撃を強化する中で、長期作戦に必要な弾薬や食料、支援をワグネルの戦闘員に供給しなければならない状況だという。

ウクライナ国防省がCNNに提供したワグネル戦闘員のボディーカメラのものとされる8月の映像には、傭兵たちが防護具やヘルメットの不足について不満を漏らす様子が映っている。別の動画では戦闘員の1人が、弾薬切れにもかかわらずウクライナの陣地への攻撃を命じられたと不満を語っている。

補充すべき戦力

戦場での損耗もワグネルの要員の減少に拍車を掛けている。対策として、ワグネルは異例の公開求人に乗り出した。

ロシアにはワグネルの新兵を募集する看板が出現。携帯電話の番号や迷彩服を来た戦闘員の写真が掲載されている。「オーケストラ『W』は君を待っている」とのスローガンは、ワグネルの過去の通称である「オーケストラ」に言及したものだ。

ワグネルによる採用活動の拡大は、過去の秘密主義からの転換と軌を一にしている。プーチン氏に近いエフゲニー・プリゴジン氏も9月下旬、ついにワグネルのトップであることを認めた。プリゴジン氏は長年ワグネルとの関係を否定して距離を置こうと試み、自身を調査するロシアメディアを相手取った訴訟まで起こしていた。

ワグネルの採用活動はSNSやインターネット上にも広がっている。採用担当者の1人はCNNに対し、月給は「少なくとも24万ルーブル(約56万円)」で、「出張」(配備を表す隠語)期間が少なくとも4カ月あると説明。採用担当者のメッセージの多くには、がんやC型肝炎、薬物中毒など、入隊の妨げとなる医学的条件が列挙されていた。

精鋭軍事組織とのイメージとは裏腹に、ワグネルの採用担当者の1人はCNN記者の取材に驚くべき事実を認めた。軍隊経験は不問なのだという。

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