インド軍と中国軍、棒とレンガで衝突 SNSで映像出回る
香港(CNN) インドと中国が国境を争うヒマラヤ地方の係争地で、これまで公表されていなかった両軍の衝突の様子をとらえたと思われる映像がSNSで出回った。
事情を知るインド軍の将校によると、この映像はインド北東部アルナチャルプラデシュ州にある実効支配線(LAC)で2021年9月28日に撮影された。
誰が撮影・公開したのかは不明だが、この映像はインドのSNSで13日に拡散し始めた。その数時間前、インド国防省は、アルナチャルプラデシュ州タワン地区で9日に衝突が起きたことを確認していた。衝突が伝えられたのはほぼ2年ぶりだった。
映像では両軍の部隊が緑の丘に囲まれた山岳地帯に集まっている。有刺鉄線に隔てられているものの、インド兵は中国兵を、その場にあった木の棒や金属パイプのような武器で殴っている様子だった。インド兵がレンガや石を投げる場面もあった。
有刺鉄線の反対側にいる中国兵も、多くが長い棒や警棒を持っているように見える。
やがて有刺鉄線が崩れてインド兵が前進し、中国の部隊は石の壁を飛び越えてその場から撤退、インド側から歓声が上がった。
インド軍の関係者は、双方の国境に関する見解が異なること、LAC沿いを巡回していることから、侵犯は頻繁に起こると話す。
CNNが取材した数人の専門家はこの映像について、雪が見えないことから最近の衝突を撮影したものではないとの見方で一致した。それでもこの映像からは、当局が情報を厳格に統制している現地の緊張状態が垣間見える。
「この映像は、双方の間で緊張が緩和されなければ、事態がたちまち深刻化しかねない状況を物語っている」。インドのシンクタンクのシニアフェロー、スシャント・シン氏はそう指摘した。
国境をめぐって両国の間では何年も前から小競り合いが続いていたが、20年6月の衝突でインド側で少なくとも20人、中国側で4人の兵士が死亡して以来、大幅に緊張が高まった、
シン氏によると、その後発生した小競り合いについてインド当局は、「現場の司令官の間で状況が解決できるのであれば、政治指導者の関与を必要とする重大な国際問題には発展させない」という姿勢を取ってきた。
しかし9日の小競り合いはインドのメディアに報じられた。その報道と、国内の野党からの圧力によって、インド政府が事態の公表に追い込まれた可能性があると専門家は指摘する。
インド国防相は13日の議会で、中国の部隊がLACを越えようとし、「一方的に」現状を変えようとしたとして非難。双方の兵士が軽傷を負ったと述べた。
一方、中国軍は同日、インドの部隊が「不法に」国境を越え、中国側に侵入したとする声明をネットに掲載した。
新たに浮上した映像の出所は不明だが、9日にタワン地区で衝突が起きたことをインド政府が認めた直後にこの映像が出回ったタイミングについても疑問が浮上している。
映像は「インドの勝利」を表しているように見えると指摘するのは、グリフィス大学アジア研究所のイアン・ホール副所長。「インドの領土を確実に守っているというインド政府の主張を裏付ける目的で公開されたのだと思う」と同氏は語る。
国境の状態を巡る情報が不透明なことから、インドでは20年以来、「実際に何が起きたのか、どの程度の領土が失われたのか」について、野党から政府に対するプレッシャーが強まっているという。