手で地雷を除去、作付け控え農家が命の危険冒す ウクライナ
(CNN) ロシア軍の襲撃を受け占領されていた農場に初めて戻ったとき、オレクサンドル・ハブリルクさん(69)は残された光景を目にして涙をこぼした。
農場はほぼ完全に破壊され、高価な重機はぼろぼろ。昨年収穫した小麦は焼却されていた。
しかし、ハブリルクさんにとって最も差し迫った問題は、周囲の約31平方キロに広がる畑のあちこちに埋められた地雷だった。
いま、ハブリルクさんは手でこうした地雷を掘り起こしている。4月上旬に作付け期が始まるのを控え、畑から地雷を除去しようと必死だ。
「怖かった」とハブリルクさん。「それでも種をまかないといけない」
オレクサンドル・ハブリルクさん(69)と草むらに並ぶ対戦車地雷(写真左)。金属探知機で探り当てたという/Rebecca Wright/CNN
これまで、ハブリルクさんはイジューム近郊にある自身の畑から約20個の地雷を除去した。使った道具は自分で購入した金属探知機だけだ。
「地雷を見つけたら、棒を持っていき、軽くたたいて大きさを確認する。そのうえで掘り起こす」「そして慎重に持ち上げ、撤去する」という。
危険な作業だと認めつつも、ハブリルクさんは「これ以外に選択肢はない」と言い添えた。
ウクライナでは各地の農家がこうした厳しい選択に直面している。作付け期に備えて畑から爆発物を除去するか、さもなければ今年も無収入になることを想定しなければならない。
ウクライナは世界最大の穀倉地帯のひとつ。国連が仲介した合意によりウクライナの船舶は黒海を通過できるようになったものの、ロシアの侵攻で既に穀物輸出が圧迫され、パンや穀物のような主食品の価格高騰を招いている。
ウクライナ軍の推計では、現時点で国土の約3分の1が不発弾で汚染されている。今なお続く戦争のこうした残留物の影響で、肥沃(ひよく)な土地の多くが休眠状態となり、今年の収穫が脅かされている状況だ。
地元当局者らによると、ここ数カ月、畑で負傷したり命を落としたりする農業従事者が相次いでおり、南部チェルボネ村の近くでは65歳の男性が爆発物を踏んで即死した。
破壊されたハブリルクさんの農場の一つ/Rebecca Wright/CNN
畑から地雷を除去する作業は既に行われているものの、これには時間と費用がかかる。
軍の公式メディアセンターによると、ウクライナ軍の工兵は過去1年で4万5000個の爆発物を処理した。
世界最大の地雷除去団体であるヘイロー・トラストは現在、ウクライナで700人のスタッフを雇用中しており、年末までに人数を倍近くに増やす計画だ。
ウクライナでヘイロー・トラストの地雷除去チームを率いるマイリ・カニングハム氏はCNNの取材に、「汚染の規模は甚大で、国内各地に広がっている」と語った。
「問題の規模から言って、一組織ではなく国を挙げた取り組みになる」
ハブリルクさんの所有する建物と車が破壊された/Rebecca Wright/CNN
人々の安全を確保するだけでなく、「ウクライナの再建を確実にする」ためにも農地が重視されているとカニングハム氏は語る。
カニングハム氏によると、「最大の難題」はさまざまな種類の弾薬が広大な地理的領域にさまざまな密度で散らばり、一定のパターンが存在しないことだ。ウクライナの国土は欧州でロシアに次ぐ広さがある。
「金属製やプラスチック製の対車両地雷もあれば、対人地雷もある」とカニングハム氏。地雷以外にも、仕掛け線の取り付けられた手りゅう弾や、クラスター爆弾が確認されているという。
地雷除去の取り組みに「万能」のアプローチはなく、「個々の事例に合わせた方法」(カニングハム氏)が必要になる。このため、「スタッフを適切に訓練できるか」が重要になる。
戦争が1日あれば除去作業には数カ月かかると見積もるのが一般的で、地雷をすべて取り除くには何年もかかる見通しだと、カニングハム氏は話す。
そのうえ今なお激しい紛争が続いていることから、工兵や他のスタッフの安全を守るため、前線から離れた場所でしか作業を行えない。
ただ、専門家は農家らに対し、自分たちで地雷に対応しないように注意を促している。
破壊されたハブリルクさん所有の建物/Rebecca Wright/CNN
カニングハム氏は「対戦車地雷を持ち上げるのは極めて危険だ」「持ち上げようとする人を殺傷する目的に特化した持ち上げ防止装置が付いていることも多い」と指摘する。
ただ、安全性に関する警告を受けても、ハブリルクさんは自身の取り組みをやめるつもりはない。
農場は過去25年をかけてハブリルクさんからゼロから作り上げたもの。家族の未来のために再建する考えだ。
「一番重要なのは畑の除去作業だ」と、ハブリルクさんは力を込めた。