ロシアの偽情報工作、欧州議会選にもたらす影響は?
(CNN) 欧州連合(EU)では今週、欧州議会選が行われる。3億7300万人の有権者が投票所に向かう折、EUでは大量の偽情報があふれている。
EUと複数の加盟国は投票に先立ち、偽情報に対抗するための調査機関を設立。ロシアによる偽情報工作に照準を合わせている。
選挙をめぐるロシアの偽情報疑惑は目新しいものではない。ロシアは常に関与を否定してきたが、米英、EUでは以前から投票前の偽情報工作が目立つ。その手法はより洗練され、オンラインプラットフォームを飛び出し、議会や公の議論にまで入り込んできている。
米サイバーセキュリティー企業センチネルワンによると、人工知能(AI)とディープフェイクは、虚偽の情報を広めようとする者たちが好んで使うツールになりつつある。
偽の情報は、ウクライナやパレスチナ自治区ガザ地区での紛争などに対する態度に影響を与えることを目的としている。しかし、欧州デジタルメディアオブザーバトリー(EDMO)によると、過去1年間、2番目に標的にされたテーマは気候危機だった。
例えば、ドイツのビルトをまねたウェブサイトに掲載された偽記事の一つは、節電のため街灯が消されたことで、自転車に乗った10代の若者が失血死した様子を伝えていた。この記事はドイツ政府がウクライナ戦争をめぐるロシア制裁によりエネルギー危機に見舞われたため電力を削減したと主張した。多くの独メディアがこの内容が虚偽であることを証明したが、フェイスブック上では広がり続けた。
EDMOによると、再生可能エネルギーはEUのエネルギー安全保障にほとんど役立っていないという偽りの話も出てきている。しかし公式統計によれば、再生可能エネルギーは2022年にEUで消費されるエネルギーの23%を占めた。欧州諸国の中には、化石燃料よりも再生可能エネルギーを多く使用している国もある。
昆虫を食べるよう強制されている?
オンラインで始まった偽情報工作は欧州議会に浸透しつつあり、ポピュリストの政治家が同じ偽の情報を広めている。
フランスとイタリアの政治家は農業による汚染を削減するための気候政策によりEU市民が昆虫を食べることを余儀なくされるという虚偽のニュースを共有。クロアチア、ドイツ、ポーランドの人々は、英国の政治家が市民に気候変動対策のための「ロックダウン(都市封鎖)」を実施しており、同様の制限が自国にも導入される可能性があると聞かされた。
偽情報工作は実際に、気候変動や生物多様性に配慮しながら経済成長を目指す「欧州グリーンディール」に影響を及ぼしている。
EUは地球温暖化につながる汚染への取り組みにおいて世界をリードしているとみなされているが、気候に関する偽情報は、1990年比で2040年までに炭素排出量を90%削減するというEUの野心的な目標を損なう可能性がある。
この包括的な目標はすでに脅威にさらされている。19年の欧州議会選で多くの気候重視の政治家を当選させた「グリーンウェーブ」は終わったとみられており、議会で進歩的な気候対策を推進する勢力が減ることになる。
EUはこうした問題に対する答えとして、特に違法コンテンツ、誤解を招く広告、偽情報を対象としたデジタルサービス法(DSA)を制定した。EUはこの新法を利用して大手SNS企業に自社プラットフォームの取り締まりを義務付けている。欧州委員会は先ごろ、欧州議会選を標的とした偽情報をめぐり、フェイスブックとインスタグラムに対して正式な手続きを開始した。
しかし、こうした取り組みは、巨大化している問題に対処するには限界がある。気候変動と偽情報に取り組む国際団体は、SNS企業や政府の対応はひどく不十分だと述べた。
CNNは2月、スロバキアの有力候補が議会選挙で不正操作をすると「認めた」、偽のAI生成音声について報じた。この録音は、昨年秋に行われた重要な選挙のわずか数日前にフェイスブックで公開された。
標的となった候補者は親欧米派の政治家で、ロシアと密接な関係にある別の候補者に敗れた。