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大打撃受けたヒズボラが「無制限の戦い」宣言、壊滅的な戦争の瀬戸際へ

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イスラエルによる20日の攻撃を受け、がれきの撤去作業が進められている=21日、ベイルート南部郊外/Bilal Hussein/AP

イスラエルによる20日の攻撃を受け、がれきの撤去作業が進められている=21日、ベイルート南部郊外/Bilal Hussein/AP

レバノン・ベイルート(CNN) レバノンの首都ベイルート南郊にあった9階建ての集合住宅は、イスラエルに空爆されてがれきと化した。全身ほこりまみれの姿で助け出された男性は、救助隊の腕の中で力なく動いていた。遺体袋を荷台に積んだ四輪バイクが救急車の横を通り過ぎて行った。

攻撃の悲惨な余波に疑惑の目が向けられている。イスラム教シーア派組織ヒズボラの平服のメンバーが、写真を撮っていた人々の携帯電話を奪い、写真を削除するよう要求した。「携帯電話をここから持ち出せ!」。1人の女性が叫び声を上げた。

イランの支持を受けるヒズボラにとって最も暗い時間だった。イスラエルに空爆された集合住宅の建物の地下では、ヒズボラの精鋭部隊「ラドワン部隊」司令部の会合が開かれていた。

女性や子どもを含む少なくとも45人が、ヒズボラの戦闘員16人とともに殺害された。この中にはラドワンのイブラヒム・アキル司令官や幹部のアフマド・ワハビ氏も含まれていた。

わずか2日前にはレバノン軍兵士が所持していたトランシーバー数百台がほぼ同時に爆発。その前日にはヒズボラのメンバーが使っていたポケベル数千台が爆発して数百人が手足に大けがを負い、17日以来の攻撃による死者は少なくとも80人に上る。ほとんどはヒズボラのメンバーだったが、死傷者には女性や子どもも含まれていた。

国家に属さない世界最大級の戦闘部隊は、軍事部門が過去最大の打撃を受け、40年以上の歴史の中で最もあからさまなイスラエルによる通信インフラ侵害の被害に遭った。レバノンの治安関係者によると、内部に侵入されたことで一連の攻撃が可能になり、ヒズボラ内部にパニックを引き起こした。

レバノンのバッサム・マラウイ内相は21日の記者会見で、レバノンはイスラエルによる「侵害」の渦中にあると宣言し、「外国人、ホテル、シリアのキャンプ」に対する監視を強めると熱弁を振るった。

イスラエルは軍事力を行使してヒズボラを追い詰め、一般戦闘員や軍事部門の指導者を攻撃した。

ヒズボラは軍事力を弱体化され、秘密性を暴かれて、数十年に及ぶイスラエルとの戦闘史上、最も不安定な状況に陥った。ヒズボラの目的は、国境で小規模な戦闘を展開することでパレスチナ人を代表してイスラム組織ハマスの交渉上の地位を支援することにあった。だがパレスチナ自治区ガザ地区の停戦はこれまで以上に遠のいたように見える。現在のイスラエルに対する限定的な攻撃は、ヒズボラにとって無限とも思える代償を伴う。

だが暴発に対する衝動はかつてないほど大きくなり、この地域は壊滅的な戦争の瀬戸際へとさらに近づいた。

ヒズボラのナンバー2、ナイム・カセム氏は20日のイスラエルによる空爆を受け、衝突は「新たな章」に入ったと宣言。これを「無制限の戦い」と呼んだ。

ヒズボラは22日未明、昨年10月以降で国境における最も大規模な攻撃を展開。イスラエルのハイファ南東にあるラマト・ダビド空軍基地や、ラファエルの軍事産業拠点を標的にしたことを明らかにした。被害状況についてイスラエル軍からの返答はなかったが、当局者はこの付近が直撃されたことを確認した。

レバノンの攻撃により損傷したイスラエルの住宅=22日/Shir Torem/Reuters
レバノンの攻撃により損傷したイスラエルの住宅=22日/Shir Torem/Reuters

これは、2006年にレバノンとイスラエルの間で行われた全面戦争以来、ヒズボラによる最大規模の攻撃の一つとなった。ヒズボラは、中距離ロケットとみられる「ファディ1」「ファディ2」という新型ミサイルを使ったとしており、もしも確認されれば、ヒズボラが短距離弾の範囲を越えてミサイルを撃ち込んだのは今回が初めてだった可能性がある。

ヒズボラはある程度の抑止力を回復し、ヒズボラとの戦闘におけるイスラエルの「新たな章」を終わらせたい考えだろう。

確かなのは、ヒズボラとイスラエルの間には新たな暗黙の交戦規則があるということだ。数カ月前まではイスラエルがベイルートを攻撃すれば、イスラエルの主要都市にヒズボラが報復攻撃を仕掛ける可能性が高いと考えられていた。しかし、イスラエルが1月にベイルート南部でハマスの指導者を殺害した後、それは真実ではないことが判明した。これ以降、イスラエルはベイルートでヒズボラの標的を5度攻撃している。

20日のイスラエルによる空爆の数時間前、ヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララ師は、通信機器に対する攻撃について「前例がなく、重大」だったと形容した。ヒズボラはこの戦いには敗れたが、戦争に負けたわけではないという意味だったと思われる。

20日の空爆で死亡したヒズボラの戦闘員3人の葬儀に参列した支持者は「戦争はボクシングの試合のようなものだ。勝つ日もあれば、負ける日もある」と言い、「我々の信仰は揺るがない。全員がナスララ師のために血を流す覚悟がある」と語った。

本稿はCNNのタマラ・カブラウィ記者による分析記事です。

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