建物の脱炭素化を目指す 米国のクリーンエネルギー企業
ニューヨーク(CNN Business) 米ニューヨーク市ブルックリンを拠点とするクリーンエネルギー新興企業のブロックパワーは、環境に優しい全電気式の冷暖房システムを、低所得者層が居住する古い建物に導入することで、二酸化炭素(CO2)排出量と電気代の削減を目指している。
ブロックパワーのウェブサイトによると、同社はゴールドマン・サックスのアーバン・インベストメント・グループやマイクロソフトのクライメート・イノベーション・ファンドなどの投資家の支援を受け、冷暖房・給湯システムに全電気式のスマート技術を導入。これにより建物の所有者は、電気代を年間20~40%節約できるほか、資産価値の向上が実現できるという。ガス式炉のような古い設備をヒートポンプシステムに置き換えることで、建物の「環境フットプリント」(環境への負荷)が劇的に変わるとしている。
「我々は建物をテスラに変える」と、同社のドネル・ベアード最高経営責任者(CEO)は意気込む。同氏はCNNの取材に対し、「テスラが自動車から化石燃料のエンジンを取り外し、スマートで最新式の電気を蓄えたバッテリーに置き換えるように、我々は住宅や学校、建物から化石燃料機器をすべて取り外し、地球にも人間にも優しいスマートでモダンな全電気式の健全なシステムに置き換えていく」と語った。
ブロックパワーは2014年の創業以来、1200棟を超える建物のエネルギープロジェクトを完遂してきた。現在は、ビリオネア(億万長者)のアマゾン創業者ジェフ・ベゾス氏が設立したベゾス・アース・ファンドから助成を受け、米国内の1億2500万棟の建物をマッピングしているところだ。その後、どの建物が最も環境的に持続可能なのかを分析し、その結果を基に、建物が効果的に脱炭素化するための持続可能な計画を立てるという。
「家、教会、シナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)、モスク(イスラム教礼拝所)、学校で暮らすすべての米国人家族は、当社のコンピューターソフトウェアが推奨する内容に基づき、個々の建物の脱炭素化計画を当社から無料で得られる」と話すベアード氏。また、「シリコンバレーの最新鋭の技術を駆使した推奨エンジンを構築することで、事業規模を拡大していく」と説明した。
同社は「最新鋭の技術」を駆使することに加え、昔ながらの手法も取り入れている。それは1棟ずつ、建物の所有者に直接会ってシステム設置について話をすることだ。
ベアード氏は、ブルックリンの最貧地区でコミュニティー・オーガナイザーとして活動した経験から、「人々を行動に移すための最も重要なコミュニケーション手段は、1対1の会話であり1対1の人間関係を築くことだ」と述べた。「建物を環境に配慮したものにシフトしていくことは、とても難しく、複雑で、少し怖くもあり、費用もかかる」とベアード氏。1対1の会話を何千回も繰り返した結果、建物が人間関係のネットワークなどを形作っていることに気づいたという。
ブロックパワーが抱える課題の一つは、建物の所有者に多額の賭けをするよう説得することだ。同社のウェブサイトによると、ブロックパワーのダクトレス熱源ヒートポンプは、約185平方メートルの住宅で2万5000~3万ドル(約340万~400万円)の投資が必要だが、これは物件によって異なる。この投資は、時間の経過とともに電気代削減などの形で回収されるとしている。
同社の技術を導入した建物の所有者は、実際に違いを実感しているようだ。ブロックパワーの環境に優しい技術を導入したアパートの所有者、リンカーン・エクルズさんは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の最中にボイラーが壊れたため、暖房システムの改修を検討していた。そこでブロックパワーは、電気代を下げ、エネルギーシステムの音を減らし、空気を浄化し、居住者が満足する冷却ソリューションを提供した。
「これはヒーローのような仕事だ」とエクルズさんはCNN Businessに語った。「文字通り、借り主が私のところにやってきて、このシステムについて感謝し、実際に電気代が節約できたと教えてくれた」
ブロックパワーはエネルギーとヒートポンプ技術を通じて、CO2排出量と電気代を削減しながら、エネルギー分野を根底から覆すことができると確信している。同社の目標は、温室効果ガスの排出を抑制し、地域社会を活性化させることだ。プロジェクトの達成に向けて地元の労働者を雇用し、化石燃料の燃焼に依存する古いエネルギーシステムを変更することでその実現を目指す。
「今必要なのは、エネルギーシステムと建物のインフラ全体を、化石燃料からクリーンエネルギーにシフトすることだ」とベアード氏。「地球を救うことは最優先事項であるべきだが、全員を説得することはできない。だが、人々の最優先項目である健康や快適さを保つこと、お金の節約などは、これらのヒートポンプによって実現可能だ」