2000年代、自動車市場で賭けに出た中国、エネルギー政策で大きな成果

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EVの販売、普及の分野で中国は世界をリードする存在に/Illustration by Leah Abucayan/CNN/Getty

EVの販売、普及の分野で中国は世界をリードする存在に/Illustration by Leah Abucayan/CNN/Getty

(CNN) 中国・北京の街並みは、わずか数年で劇的に変化した。騒々しく、臭いを発するエンジン音は、巨大都市には珍しいほどの静けさに置き換わった。路上は主に電気自動車(EV)が走行し、その全ての車両には特徴的な緑色のナンバープレートが付けられている。

これは北京だけの現象ではない。ガソリン車が主流の国から中国の主要都市を訪れる人々が受ける第一印象はこの静けさだろうとアジア社会政策研究所の中国気候拠点の責任者リー・シュオ氏は言う。

同氏はCNNに「まるで未来に足を踏み入れたようだ」と語った。

中国のEVの成長は、どの指標から見ても驚異的だ。世界最大の自動車市場である同国は新車販売の半分以上がEVで占められ、今後数十年でガソリン車を事実上なくす道を歩んでいる。英国の調査会社ロー・モーションのデータによると、昨年の中国のEV販売台数は1100万台に急増し、前年比約40%増加した。これは「不可逆的な変革」だとリー氏は指摘する。

中国のEV革命は、クリーンテクノロジーにおける中国の優位性を確立し、地球規模での気候対策の主導的立場を主張する助けとなっている。一方で、トランプ政権は地球温暖化を加速させる化石燃料への依存を強化し、クリーンエネルギーを非難している。

中国のEV革命は石油市場をゆるがせてもいる。アナリストは、中国の石油需要がピークに達し、増加から減少に転じる可能性があると予測しているが、その影響は中国国内にとどまらない。中国は世界最大の石油輸入国であり、同国の動きは世界の石油市場全体に波及するからだ。

中国の大胆な賭け

中国のEV普及のルーツは20年ほど前にさかのぼる。

ガソリン車市場では日米、欧州の大手自動車メーカーから大きく水をあけられていたため中国が追いつくのは困難だったとリー氏は言う。しかし、EVは新たな市場で中国が優位に立つ機会となった。

さらにもう一つの重要な利点があった。それはエネルギー安全保障だ。

化石燃料に恵まれた米国とは異なり、中国は輸入した石油に依存して成長してきた。この他国への依存は「地政学的なリスク」となり得ると、戦略国際問題研究所(CSIS)の中国気候政策専門家であるイラリア・マツォッコ氏は指摘する。EVの利点は、中国国内で豊富に供給される電力で動くことだ。

北京の金融街の道路を走行する乗用車/Na Bian/Bloomberg/Getty Images
北京の金融街の道路を走行する乗用車/Na Bian/Bloomberg/Getty Images

中国政府が本格的にEV推進政策を導入し始めたのは2009年ごろだという。メーカーには低金利での融資や研究資金が提供された。

これはかなり大きな賭けであり、道のりは平坦ではなかった。数年後には「失敗と見なされた」こともあった。

しかし最終的に、その賭けは実を結んだ。これは中国の地方および中央政府の一貫した支援、バッテリー技術の進歩、そしてBYDなど多くの競争力のある企業の台頭によるものだとマツォッコ氏は話す。

現在、中国は充実した充電インフラとEVに関する専門知識、技術、原材料を有している。エネルギー・クリーンエア研究センターの共同設立者、ラウリ・ミルリビルタ氏は、中国が消費者が実際に購入したいと思う安価なEVを量産していると指摘する。

米国の状況は大きく異なり、補助金がなければEVの経済的メリットは弱い。なぜなら、ガソリン価格が「破格に安く」、消費者は「非常に大型の車」を好むからだという。

トランプ大統領の下で米国はEV推進政策から急速に遠ざかり、中国製EVやバッテリー材料への関税を引き上げようとしている。

結果として米国市場は世界の他の市場からさらに異質になる可能性が高く、「米国の自動車メーカーが海外で競争するのは一層難しくなる」とミルリビルタ氏は語った。

中国はまた、EVの輸出を通じて世界の景観を再編している。その急成長はタイやブラジルを含むグローバルサウスの国々に向かっている。安価な中国製EVの流入は「他国における電力への移行を加速させる可能性がある」とミルリビルタ氏は述べている。

劇的な変化

中国のEV革命は、同国をクリーンエネルギー大国へと向かわせている。しかし、同国が風力や太陽光エネルギーを急速に増やしている一方で、EVの充電に使われる電力の主力は依然として石炭だ。

電力を石炭に大きく依存していても、EVのライフサイクルを通じた汚染物質の排出量はガソリン車に比べて少ない。しかし製造工程での炭素排出を考慮すると、EVの販売が排出量削減に効果を発揮し始めるのは数年後になるという。

中国が再生可能エネルギーを推進するにつれ、EVの気候への影響はさらに減少するだろう。調査会社のロジウムグループは、40年までに中国の電力網の炭素排出量が60%低減すると予測している。同社の国際エネルギー・気候研究責任者のケイト・ラーセン氏はこれを「非常に大きな数字だ」と評価している。

ラーセン氏によると、40年までに中国で販売される新車の100%がEVになる可能性がある。「これにより、輸送部門からの排出量を急減させる準備が本格的に整う」

北京の充電ステーションに停車する電気自動車/alliance/dpa/AP
北京の充電ステーションに停車する電気自動車/alliance/dpa/AP

今後数年で中国国内および世界全体で石油の需要がどのように変化するかについては未知数だ。しかし専門家たちは、中国の急速なEVブームがもたらしうる劇的な変化を表していると述べている。つまり、EVの台頭は、世界の石油需要のけん引役としての同国の役割を終わらせ、国際舞台での役割を再定義する手助けをする可能性がある。

マツォッコ氏は「中国は、経済的、地政学的、気候的な利益が一致する状況にある」と話す。

中国のクリーンエネルギーへの移行は、トランプ大統領がEVやクリーンエネルギーへの支援を打ち切ると約束する米国とは対照的だ。

リー氏は「中国と米国の路上を走る車には大きな違いがある」とし、米国が自動車製造史における「化石」と見なされる危険性があると指摘した。

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