宇宙空間では人体に何が起こるのか<3> 火星探査へ向けて
(CNN) 宇宙飛行が人体に与える影響として近年注目されているのは、目の健康への作用だ。ケリー氏ら40歳代後半から50歳代の飛行士は、視力が若干変化したとの不調を訴えた。宇宙滞在中に眼鏡が必要になった飛行士もいる。チャールズ氏によれば、近くのものが見えにくくなるなど老眼に似た症状が急速に進行するという。
フォガーティー氏によると、宇宙飛行士の体液が移行する現象や、目と視神経、脳がつながっていることを踏まえ、目が一種の圧力調整弁として機能していると示唆する研究もあるという。ただ、根本的な原因をめぐってはさまざまな研究が行われている途中だ。
また、ISSでは地球上の10倍の量の放射線にさらされる。NASAは放射線リスクを1%に抑えることに成功したものの、火星探査の任務では宇宙飛行士が有害な銀河宇宙線にさらされる恐れがある。がん発症リスクの増加や放射線酔い、認知運動機能の変化に加え、白内障や心臓循環器系の病気にもつながりかねない。
無重力状態を経験した後に再び地上に降り立つことから来る問題もある。飛行士は火星に上陸した直後から作業に取りかからなければならない。火星の重力は地球上の3分の1だが、無重力遊泳を6カ月にわたり続けた後にはやはり適応のための努力が必要となる。
ホプキンス飛行士は地球に帰還した際のことを振り返り、かがむとそのまま倒れそうになるなど、重力下での生活に慣れるのに時間を要したと述べる。帰還時に使ったソユーズ宇宙船の中で飛行規定集を配ろうとしたところ、700グラム程度の小さな本が10キロ以上あるように感じられたという。
ただ、HRPでは常に宇宙で生活する方法を研究している。2020年代や2030年代に宇宙飛行士がさらなる探査を行う際は、こうした研究などが助けになる見込みだ。チャールズ氏は「人体は火星との間を往復する試練に耐えることができる」と期待を寄せる。
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