OPINION

米陸軍の退役少将に聞く ウクライナが勝利するために必要なこと

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マリウポリの街路を進む親ロシア派勢力の軍用車両の列=4月21日撮影/Chingis Kondarov/Reuters

マリウポリの街路を進む親ロシア派勢力の軍用車両の列=4月21日撮影/Chingis Kondarov/Reuters

(CNN) 米特殊作戦軍を欧州で率いた経歴を持つ陸軍の退役少将、マイク・レパス氏は、国際社会がウクライナへの支援を大いに増やす必要があると語る。侵攻にさらされる同国がロシア軍を駆逐できるとすれば、そうした取り組みが不可欠だという。

レパス氏は過去6年間、米政府から請け負う形でウクライナ軍への助言を行ってきた。先月はポーランドとウクライナ西部を訪れ、ウクライナでの戦争の道筋に関するより深い知見を得た。筆者は先月29日と今月2日、同氏から話を聞いた。

同氏によれば、ウクライナは軍備のための供給網が効率的ではない。また国内からロシア軍を駆逐するには追加の軍隊が必要になるという。

ウクライナでの戦争に勝利するため、レパス氏は米国と同盟国がウクライナ軍の戦略部隊を立ち上げることを提唱する。5つの旅団からなるこの部隊には最大4万人の兵士を投入。攻勢作戦に従事させ、ロシア軍を自分たちの国から駆逐する。

※情報開示:レパス氏は世界の特殊部隊のネットワーク構築に携わる非営利組織、グローバル・スペシャル・オペレーションズ・ファウンデーションの諮問委員会のメンバー。筆者(ピーター・バーゲン)は同組織の会長を務める。両者の会話は明瞭さと長さを念頭に編集されている。

バーゲン:視察して分かったことは?

レパス:第一に、ウクライナ軍は今なお多くの支援を必要としている。第二に、北大西洋条約機構(NATO)の動きは遅すぎる。第三に、軍の装備品がウクライナに到着してどうなるのか、我々からは見えない。

軍の装備品を供給する仕事は今、プロフェッショナルとは対極の個人化したものになっている。最高幹部は供給の優先順位を設けているが、確認できたところではそうした優先順位は消費率の把握、あるいは今後の作戦や客観的なデータに基づいていない。依拠しているのはどこそこの旅団、作戦地区の司令官の言葉であり、「おい、ジャベリンミサイルを27発ほしい」といった要求に従う。つまり極めて個人化が進んだ状況となっており、それでは戦時の兵站(へいたん)は回らない。燃料や弾薬、バッテリーといった重要な物資について、その消費率がどうなっているのかを把握しておくのがあるべき姿だ。

バーゲン:ウクライナで起こりそうな結果とは、血みどろの紛争がただただ続いていくということなのだろうか?

レパス:明確な将来のシナリオは3つだ。ロシアが戦場での決定権を握るか、ウクライナが戦場での決定権を握るか、もしくは膠着(こうちゃく)状態に陥るか。3つの結果のうち2つは、ロシアに勝利をもたらす。

膠着するシナリオでは、ロシアはただ現場の事実をもとに勝利を宣言し、より広大なウクライナの領土をいつとも知れない将来にわたって占拠し続けるだろう。ロシアにとってはウクライナに対する完全勝利とまではいかないが、それでも一定の勝利であり、相当広い領土がロシアの支配下に置かれることになる。

そこで我々西側諸国は集団として何をするのか? 3つの可能性のうち2つについて、確実に起こさないようにするためにはどうすればいいのか? 今だれもが考えるのは即座に戦うことだ。だから我々は補給物資を直ちにウクライナへ送り込んでいる。問題はウクライナ軍がロシアを自国から駆逐するために、追加の戦闘能力を必要としていることだ。

バーゲン:なぜ?

レパス:彼らにはそれを実行するだけの十分な戦闘力がないから。つまり十分な装備や火力、熟練した兵士が現時点で足りていない。

ロシアは常に兵力で相手を上回ろうとする。必ずしも優れた部隊ではなく、数が多ければいい。スターリンがかつて口にしたように「量はそれ自体が質を伴う」。大半の人々はこの戦争が消耗戦になると気付いており、ある時点で戦況がロシア有利に傾き始めるだろうと認識している。ウクライナ側に追加の兵力が生み出されない限りそうなるだろう。

思うにNATO加盟国や国際社会の間では、ウクライナの現行の戦闘に物資供給を行う以外にも何かしなくてはならないという実感が高まっている。そこで米国とその同盟国は以下の4つの行動を取る必要がある。第一に、ウクライナの戦闘能力を強化することでロシア側を弱体化させなくてはならない。第二に我が国とNATOの戦闘能力を高めてロシアに対する抑止力を働かせる。第三はロシアの軍隊と戦闘能力の質を低下させる。最後にロシアのウクライナでの敗北を確実にする必要がある。それは戦略的かつ作戦の遂行が可能な予備役の部隊をウクライナのために構築することで達成する。これらの部隊が攻撃的な作戦を遂行し、ロシアのウクライナからの駆逐と国境の保全とを可能にする。

バーゲン:実際にはどのような部隊になるのか?

レパス:米国、フランス、ポーランド、英国、ドイツがウクライナの戦闘力となる旅団をそれぞれ構築する。これらの国々には相当の軍事力があるので、ウクライナ人の部隊に装備を施して各国で訓練を行えば戦力を生み出すことができるだろう。こうして5つの旅団が5つの作戦地区に配備される。おそらく6~8カ月かけて実施することになるだろう。これらの5旅団は西側の装備と戦術で戦う。具体的には陸・空戦力の統合作戦(エアランド・バトル)を展開する。そこではNATOの相互運用性に優れた戦車や近接航空支援、防空といったあらゆる戦力を動員できる。

バーゲン:5つの旅団なら大兵力と言えないのでは?

レパス:確かに言えないが、これは短期的に実行可能だと考えている。1つの旅団に配備される兵士は8000人程度だから、5旅団で最大4万人の兵力だ。国家非常事態にある現状なら、ウクライナ人がそれだけの数の兵士を見つけてくることは可能なはずだ。

歴史的に、西側の軍隊がロシア人によって供給された軍隊と対峙(たいじ)する場合、ロシア側の軍隊は数で劣る相手に完敗してきた。例えば第1次湾岸戦争がそうだ。あの時は米軍が、サダム・フセイン率いる軍隊の大半をクウェートで壊滅させた。周知のように、西側の軍備はロシア軍の装備を質の面で大幅に上回っている。従って西側の軍備とロシア製の装備が対決する場合において、兵士の数や戦力比には偏りが出る。

バーゲン:なぜロシアは、あまりうまく機能しない戦闘モデルに固執するのか?

レパス:彼らは戦い方において融通が利かない。言ってみれば、彼らがウクライナでの戦争の開始当初試みたのは奇襲だった。迅速な攻撃で首都キーウ(キエフ)を奪取しようとしたがうまくいかず、こてんぱんにやられた。そこで火力のすべてを東部と南部に振り向け、大規模な砲撃を実施した。標的を狙うか、または接近経路に沿う形で砲弾を撃ち込んだ。目の前のものをほぼ全て破壊してから、彼らは整然と進軍していく。つまりこれは機動戦ではなく、火力による消耗戦にほかならない。火力を基調にした軍隊は、我々西側諸国のそれと正反対だ。我々の軍隊は機動力に基礎を置いている。

バーゲン:ウクライナで新たにロシア軍の指揮を執るアレクサンドル・ドゥボルニコフ司令官についてどう思うか?

レパス:彼は徹底して火力を基軸とする消耗戦の申し子だ。機動戦を戦うタイプではない。生涯でやってきたあらゆることをするだろう。行く手にあるすべてを爆破・破壊して、兵士を送り込む。兵士らは強制的にウクライナの民間人を退避させ、ロシアからドンバス地方、クリミア半島へと至る回廊での抵抗運動の芽を摘むだろう。

バーゲン:東部と南部における現在の戦況をどう見るか? ロシアは自分たちが勝っていると考えているのか?

レパス:現段階ではロシアは北部と南部の両方で整然と軍を進めている。東部での防衛に当たる軍勢を仕留めてウクライナ軍の守備隊を包囲し、その後南部でも同軍を打ち破ろうとしている。またミコライウを取り囲んで防御を削減し、守備隊を撃破したいとも考えている。そうすればオデーサまで自由に行き来できるようになる。ロシア軍がオデーサに達するには、ミコライウ周辺の部隊を囲むか、叩くかする必要がある。

バーゲン:そこまでオデーサを取りたい理由は?

レパス:ウクライナを黒海から完全に切り離すことができるからだ。トランスニストリア(沿ドニエストル)とモルドバへの入り口にもなる。

バーゲン:モルドバへのアクセスに言及したロシア軍幹部のコメントを聞いてどう考えたか? 額面通りに受け止めているか?

レパス:もちろん深刻な脅威ととらえているし、ロシアはモルドバに目を付けていると考える。取れると思えば、実行に移すだろう。具体的に口にしている行先はトランスニストリアだ。もし南部でトランスニストリアまでの回廊を築くことが可能なら、そうするだろう。実現すればロシアがモルドバの玄関先に立つことになり、その場合モルドバがロシアの侵攻を防ぐのは実質的に不可能だろう。

バーゲン:ウクライナ戦争の拡大か?

レパス:事実としてベラルーシは2月24日の開戦以来、ロシアにとっての避難所になっている。私が話を聞いた欧州人たちは、ベラルーシが従属国家だと信じて疑わない。ロシア政府の意のままに動き、本質的に支配もされていると考えている。ベラルーシは今回の戦闘に軍隊を派遣していないが、ロシア軍に宿泊場所や拠点を提供するなどして支援を行っている。ロシア軍が自国の領土・領空から作戦を発動するのも認めており、これまで複数の精密打撃ミサイルが同国から発射された。

プーチン政権の当局者らは、バルト諸国には歴史的根拠がなく、非正統的な国家だとも発言している。戦前にはウクライナについて同じことを言っていた。バルト三国とポーランドは、ウクライナに続き、自分たちもロシアの殺害対象としてリストアップされているという確信がある。彼らにとってロシアは自国の存続にかかわる脅威だ。しかもプーチン氏がウクライナまでで侵攻を止めるという根拠はどこにもない。

バーゲン:一連の核使用を巡る威嚇については? ほとんどが見せかけだと思うか?

レパス:そう思う。プーチン氏自らそれを口にするのと、ラブロフ外相に言わせるのとでは全く別の話になる。ラブロフ外相の口から出るのは見せかけだと思う。自分たちの核政策に従い、彼らはロシア本土に著しい脅威があると感じた場合、いわゆる戦術核兵器を使用するだろう。そうした種類の状況について、ロシアはすでに西側に伝えている。その場合には、核兵器の使用も辞さないということだ。

バーゲン:では、核使用のハードルは高いと。

レパス:その通り。

バーゲン:ロシア黒海艦隊の旗艦でミサイル巡洋艦の「モスクワ」が4月半ばに沈没した結果、中国はこの展開から多少なりとも台湾侵攻の是非に関する自己分析を行うと思うか?

レパス:そう思う。モスクワ沈没だけでなく、よく訓練された強固な敵が侵攻に対して持ちこたえ得るという点についても同様だ。ロシアは数の上で劣る相手から手ひどく体面を傷つけられているが、海を渡っているわけではない。ロシアのウクライナ侵攻は陸からだが、中国の場合はおよそ160キロの海峡を渡らなければ台湾にたどり着けない。従って彼らは、台湾侵攻が想定していたよりもかなり困難なものになると考えるに違いない。

バーゲン:自分がプーチン氏だとしたら、今どのような気持ちか?

レパス:おそらく、モスクワ沈没の翌日よりは気分がいいだろう。多分心には葛藤や混乱があると思うが、このまま突き進んで勝利を収めなくてはならないと自覚している。同氏は自ら作り上げた野獣に囚(とら)われ、インターネットを使ってみることもほとんどない。コンピューターに向かっているのを見たことがないし、少なくとも2020年後半の時点では、iPhoneを持っていないと報じられていた。

外の世界とつながりがなく、あらゆる情報は取り巻きか、ロシア国内のニュースメディアによってもたらされる。メディアはもちろん国家の統制下にあり、国がコントロールしたメッセージしか流さない。つまり同氏は北朝鮮のようなエコーチェンバー(反響室)の中にいるため、正確な情報をつかむことができない。

バーゲン:戦争を始めるのは往々にして容易(たやす)いが、戦争にはそれ自体に備わるロジックがある。残念ながらこの戦争は1年、あるいは2年にわたって続くかもしれない。

レパス:あいにくだがその通りだ。1年以上続けば、過酷で苦渋に満ちた戦争になるだろう。私は少なくとも2年は続くと思っている。とはいえ膠着状態に陥らせるわけにはいかない。もしそうなればプーチン氏はとにかく成功を主張し、続く無慈悲な占領政策によってウクライナの領土を支配下に置いてしまうだろう。

ピーター・バーゲン氏はCNNの国家安全保障担当アナリスト。米シンクタンク「ニューアメリカ」の幹部で、アリゾナ州立大学の実務教授も務める。近くトランプ政権に関する書籍のペーパーバック版が出版される。記事の内容は同氏個人の見解です。

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