巴丢草の世界――中国の風刺漫画家がオーストラリアで生まれ変わるまで
オーストラリア・アデレード(CNN) 南部アデレードを見下ろす山の中腹。中国出身の反体制派アーティスト、巴丢草氏は落ち着かない様子をしている。車内に携帯電話を置いてきてしまったのだ。
携帯電話を手にしている時はひっきりなしにツイッターをチェック。記者や反体制派の仲間から絶えず送られてくる投稿を通じて中国とのつながりを保っている。オーストラリアに自主亡命してから7年近くになるが、巴丢草氏にとって何より怖いのは中国本土から切り離され、過去の闘争を戦う海外の評論家の一人に成り下がってしまうことだ。
巴丢草氏は2011年、中国東南部の温州市で起きた高速鉄道事故の前後に中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」を始めた。中国のネット史上における転機となったこの時期、当局による事故の説明に疑問を呈して隠ぺい工作に対抗するため、数百人がソーシャルメディアで声を上げた。
同氏は事故についての漫画を描き始め、すぐに他の政治的な話題やスキャンダルにも言及するように。この過程で数千人のフォロワーを獲得した。
だが注目が集まるにつれ、検閲当局による監視も増え出した。30件以上のアカウントを削除された末、同氏はウェイボーを放棄しツイッターに移行。現在は海外在住だが、当局のネット検閲システムを越えて中国国内に漫画が拡散することもある。
同氏の漫画はドイツ表現主義の太いごつごつとした線と、中国共産党の宣伝ポスターに見られるパンチの効いた赤と黒の表現を融合させたものだ。20世紀の初頭のドイツの版画家、コルビッツの作品を思わせるとの評もある。
米国に本拠を置く「チャイナ・デジタル・タイムズ」の編集者は、「中国政治について書く場合は暗号めいた言葉を使うことが多いが、漫画の表現は直接的だ」と指摘。中国の反体制派アーティストとして最も著名な艾未未(アイウェイウェイ)氏になぞらえ、当局が何を考えているのか気にかけないところなどが似ているとの見方を示す。
艾氏と同様、巴丢草氏もさまざまなフォーマットで作品を創作している。昨年9月には、アデレードで初の大規模な作品展が開催された。
この作品展の間、同氏は囚人服を着てフードをかぶりながら会場の隅で静かに立っていた。
壁に張られていたのは、中国の習近平(シーチンピン)国家主席を豪州総選挙の候補に見立てた色鮮やかな選挙ポスター。習氏の顔に下には「党を第一に」などのスローガンが記載されていた。