「TikTok」のない香港、米国の未来の姿か

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シバニ・ドゥカンデさんの「TikTok(ティックトック)」のアカウント/Courtesy Shivani Dukhande

シバニ・ドゥカンデさんの「TikTok(ティックトック)」のアカウント/Courtesy Shivani Dukhande

若者は大丈夫?

だが一部の人々にとって、TikTok撤退は歓迎すべき変化だった。

ポピー・アンダーソンさん(16)は、18年にTikTokがサービスを開始してからずっと利用している。同年代の例にもれず、アンダーソンさんも「スクロールばかりして」何時間も過ごしていたという。たとえ物足りなさを感じても。

「自分の好みにぴったりのものを見つけるのはとても簡単だった。(アルゴリズムによる)『For You』ページがユーザーを足止めするからだ」とアンダーソンさん。「それに面白い。たいして得るものはないけれど」

アンダーソンさんによれば、TikTokは、偏った考えをはじめ、集団心理や誤った「キャンセルカルチャー」、少女や女性の身体への批評といったネット上の不適切な行為を育む有害な環境になる場合も多い。実生活の知人がTikTokを使ってから以前とは違う行動をとり始め、友情にひびが入ったという。

マーチン・プーンさん(15)もTikTokに嫌気がさしていたが、なかなかやめられずにいた。

「みんながやっているので、自分もやらなければ、時代に乗り遅れてはいけない、流行りものは押さえておかなければいけないという感じで、それが自分にはストレスだったと思う」(プーンさん)

TikTokには偽情報や女性蔑視も蔓延(まんえん)していた。最近ルーマニアで人身売買とレイプ容疑で拘束された自称「勝ち組男子」のアンドリュー・テイト氏などのアカウントは、プーンさんの学校でも男子生徒に人気だった。

プーンさんは「(こういうアカウントが)若者に大きな影響を与えるのが心配だ。考え方を大きく左右して行動に影響する」と述べ、偽情報はTikTokだけでなく、すべてのソーシャルメディアに言える大きな問題だと付け加えた。

専門家も以前から、TikTokが若者の精神衛生に及ぼす影響を懸念してきた。ある研究によると、10代のユーザーが同アプリでアカウントを作成して数分で、自殺や摂食障害関連の有害なコンテンツがあがってくる場合もあるという。

圧力の高まりを受け、TikTokは先ごろ18歳未満の閲覧時間を1日1時間に制限すると発表した。もっとも、デフォルトのこの設定について、ユーザーは機能をオフにすることもできる。

精神衛生について率直な対話ができるなど、TikTokにもプラスの面があることはアンダーソンさんも認めている。とはいえ、同アプリが使えなくなった時には喜んだという。TikTokの誘惑がなくなり、寝つきも良くなった。「1人では自制できなかった」と振り返った。

好きなことを見つける

プーンさんや同い年の友人アバ・チャンさんにとって、TikTokの撤退後は新しい発見の連続だった。

TikTokが撤退した20年、2人はオンライン授業を受け、友達とも会えず、自宅で暇を持て余していた。インスタグラムの「リール」やユーチューブの「ショート」は、当時まだ香港では始まっていなかった。

「TikTok以外に時間をどう使うか考えなくてはならなかった」とチャンさん。「自分たちにとっては、好きなことをさらに広げることだった」

2人はニューロダイバーシティー(脳や神経に由来する特性の違いを多様性ととらえること)のコミュニティー支援を始めた。学校でニューロダイバーシティーの啓発と認知向上をめざす部活動を立ち上げ、神経多様性を持つ人々とのボランティア活動にも加わった。

2人によれば、このおかげで目的意識を持つことができた。時間が経つにつれて他にも利点があったという。

一緒にTikTok動画を撮影したり閲覧したりしていた友人も、以前より対面で話すようになった。コロナ規制が緩和されて屋外での運動もしやすくなり、運動を始める仲間も出てきた。2人の精神衛生も改善した。

もちろん10代なので、ソーシャルメディアを完全にはやめておらず、部活動の宣伝ツールとして活用している。だが、以前のように何時間もスクロールするということはなくなった。香港の外でTikTokがどうなっているのか気になることもあるが、周りで誰も使わなくなると、魅力も色あせた。

「大勢の人がTikTokのことを忘れ去ったようだ」とアンダーソンさん。「みんな別のプラットフォームに乗り換えるか、あるいは前に進んでいる」

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