YouTubeで気候変動の「新否定論」が急増 監視団体が警鐘
(CNN) 動画投稿サイト「YouTube(ユーチューブ)」で気候変動問題を否定する動画の論調が変化しているとして、監視団体が警鐘を鳴らす報告書を発表した。
SNS上のヘイトスピーチ(憎悪表現)を監視する英NGO「デジタルヘイト対策センター」(CCDH)が、近年のYouTube動画を分析した。
報告書によると、「気候変動はうそだ」「人間の活動が原因ではない」など、問題を直接否定する従来の説に代わって、最近は気候科学や対策に疑いを投げ掛けたり、温暖化は無害でむしろ好都合だと主張したりする説が目立っている。こうした「新否定論」は過去5年間で急増したと、CCDHは指摘する。
CCDHの研究チームらは、YouTube上で気候変動否定論や誤情報を広めてきた96のチャンネルに着目。2018年から昨年までに投稿された動画1万2000件あまりの文字起こしデータを収集し、人工知能(AI)を使った分析で「旧否定論」と新否定論に分類した。
その結果、新否定論の動画が占める割合は、18年の35%から昨年は70%に増えたことが分かった。
旧否定論を代表する「温暖化は起きていない」との説は、同じ期間で48%から14%に減少していた。一方、対策に効果がないとする説は9%から30%に増えた。
CCDHを創設したイムラン・アフメド最高経営責任者(CEO)はこの変化について、気候変動が実際に進行し、環境に悪影響をきたしていると主張する側が、論争に勝利した結果だと指摘する。極端な猛暑や嵐が世界各地の人々を襲い、気候変動そのものを否定する説は説得力を失いつつある。
ただ同氏は一方で、論調の変化は大きな警告でもあるとの見方を示し、「新否定論も悪質さに変わりはない」と述べた。
CCDHは特に、YouTubeユーザーが多い若年層への影響を懸念している。若者の間で気候変動対策への支持が低下し続ければ、地球の将来に破壊的な結果をもたらしかねない。
否定論の背景を研究する専門家は、若者たちの環境意識を化石燃料業界への最大の脅威ととらえる勢力が、SNSを使って反撃を試みているとの見方を示す。
YouTubeは21年に、気候変動を否定するコンテンツへの広告配信を禁止した。報告書によると、動画投稿者は新否定論に方向転換することで、このルールを回避できるという側面もある。
CCDHの試算によれば、研究チームが否定論を含むと判断した動画の広告から、YouTubeは年間最大1340万ドル(約20億円)の収益を得ている可能性がある。
広告主にはスポーツウェアの有名ブランドやホテル、国際NGOが含まれているという。アフメド氏は「知らないうちに気候変動否定論のスポンサーになっていると知ったら、どの会社も憤慨するだろう」と話す。
YouTubeの報道担当者はCNNの取材に対し、「気候変動をめぐる政策や研究の議論は認めるが、否定論に踏み込んだ場合は広告の配信を停止する」との方針を説明した。
YouTubeは、CCDHの報告書に基づいて調査した結果、違反動画がいくつか見つかって広告を削除したが、大部分は違反に該当しなかったと主張している。
アフメド氏は検索大手グーグルに対しても、同様のルールを新否定論に適用するよう呼び掛けていると述べた。さらにほかのSNSについても、一方で環境配慮を掲げながら、もう一方で気候変動に関する誤情報の拡散に加担することは許されないと訴えた。