米国事業の停止迫るTikTok、イーロン・マスク氏への売却がありうる理由
ニューヨーク(CNN) 米国人は、中国が動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の売却を承認しない限り、1週間もしないうちにTikTokを利用できなくなる。売却先は米議会が自国の非敵対者とみなす相手とされており、中国が承認する可能性は低い。ただし、理論上は承認もありうる。
同アプリを規制する連邦法の施行が今月19日に迫る中、いくつかのシナリオが浮上している。その一つは、TikTokの米国事業の支配権を「MAGA(米国を再び偉大に)」スローガンの支持者、イーロン・マスク氏に渡すというものだ。
ブルームバーグ通信とウォールストリート・ジャーナル紙は、中国当局が、北京に拠点を置くTikTokの親会社バイトダンスが同アプリの米国事業をマスク氏に売却するというシナリオについて検討していると報じた。マスク氏は史上有数の影響力を持つSNSであるX(旧ツイッター)を買収し、すでにソーシャルメディアの世界に影響を与えている。
CNNはこの報道を独自に確認することはできなかった。TikTokはこの臆測を否定しており、バイトダンスもこれまで同アプリについて売却しないと述べている。しかしこうした提携は少なくとも理論上、いくつかの理由から理にかなっている可能性がある。
まず、マスク氏、ひいてはトランプ次期大統領は、SNSの若年層ユーザー全体に向けてヒーローを演じることになる。少なくとも、ツイッターのときのようにプラットフォームをマスク化してしまうまでは(これについては後ほど詳しく説明する)。
次に中国は、TikTokの米国事業を中国政府がすでに影響力を持っている人物の手に委ねることができる。テスラの電気自動車(EV)販売の約40%は中国で発生している。なお、同アプリの売却に同社の極めて重要な独自アルゴリズムは含まれない可能性が高い。
そして、このシナリオは、Xをどん底から引き上げる方法になるかもしれない。TikTokはクールだが、Xは違う。Xがユーザーと広告主を大量に失っている一方で、TikTokは急速に拡大している。分析企業イーマーケターは、TikTokが今年米国だけで前年比26%増となる155億3000万ドル(約2兆4000億円)の売り上げをもたらすと予想している。
イーマーケターのシニアアナリスト、ミンダ・スマイリー氏は14日、電子メールで、マスク氏が議会の期限までにすべての利害関係者を満足させる取引をまとめられるかどうか、あるいはそのような売却が規制上のハードルを乗り越えられるかどうかは不透明だと述べている。
たとえ取引が成立したとしても、マスク氏のTikTokは私たちが今知っているTikTokと同じものではない可能性が高い。
「マスク氏の下ではTikTokはおそらく大きく変わるだろう。彼の管理下でツイッターがXへと劇的に変化したのを見ればわかる」「そして、TikTokのアルゴリズムが売却の対象になる可能性が低いことを考えると、取引が成立すれば、誰が所有するかに関係なく、アプリは大きく変わる可能性が高い」(スマイリー氏)
TikTokのクリエイターの多くは、このアプリで生計を立てており、アプリの存続を切に望んでいる。しかし今のところ、広く合意された代替案はない。
多くのクリエイターは他の中国系アプリ「レモンエイト」や、中国で人気のインスタグラム風アプリ「小紅書」に移行している。なお、レモンエイトもバイトダンスが所有している。
一部のクリエイターは、メタの「インスタグラムリール」に移行しているが、多くのTikTok純粋主義者は、この選択肢に見込みはないと考えている。インスタグラムリールはメタが2020年にTikTokに対抗して立ち上げた、同アプリを模倣したサービス。
TikTok上では最近、「インスタグラムリールより中国(系のアプリ)に移りたい」という意見が一般的だ。
リールとTikTokは似ているように見えるかもしれないが、ユーザー体験やコミュニティーの雰囲気は大きく異なる。
TikTokユーザーはリールを下に見る傾向がある。リールはTikTokで出回った動画を再利用した寄せ集めの場になりがちだからだ。
TikTokのカルチャーが際立っているもう一つの領域はコメント欄だ。ユーザーはユーモアのある、鋭いコメントを投稿することに誇りを持っている傾向があり、それらが独り歩きすることも多い。TikTokのクリエイターはリールでのコメント体験について、良く言えば平凡、悪く言えばまったく意地悪だと表現している。
TikTokユーザーはユーモアと独創性を重視し、荒らしをよしとしない傾向がある。しかしマスク氏のもとでTikTokがXと統合されれば、状況は変わるかもしれない。Xは、自分たちを実際よりも賢くて面白いと思っている人たちの聖域となっている。
一方、テスラの投資家は、マスク氏が2年以上前にXに440億ドルを投じた後で、さらに別のSNSプラットフォームを吸収することをあまりうれしく思わないかもしれない。マスク氏は多忙だ。少なくとも11人の子の父親であり、6社以上を経営し、トランプ氏の私邸「マール・ア・ラーゴ」にある政権移行オフィスに常時顔を出し、政府効率化省の共同責任者も務める。しかし、同氏を世界一の富豪にした仕事は、同氏が所有する唯一の上場企業であるテスラの経営だ。
筆者はウェドブッシュ証券のアナリストで長年テスラの強気筋であるダン・アイブス氏に、TikTokの見通しは投資家を動揺させるかどうか尋ねた。投資家らはマスク氏の本業以外の活動についてすでに懸念を表明している。
アイブス氏は、明らかにリスクはあるものの、TikTokを買収することでXの価値が2倍になる可能性があると指摘した。マスク氏が非公開化して以降、Xの価値は推定80%下落している。
そしてアイブス氏は、リスクがあるとしても「テック業界の重鎮たちが権力を求めて競う中、マスク氏とトランプ氏の親密な関係はマスク氏にとって大きな勝利だ」と述べた。
「1月19日が迫る中、ドラマのように多くの紆余(うよ)曲折があるだろう」(アイブス氏)
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本稿はCNNのアリソン・モロー記者による分析記事です。