(CNN) ロシア軍のイーゴリ・キリロフ中将が死亡した17日の爆発は、ロシア国内で狙いを定めて行われた攻撃で最も野心的なものだと思われる。実行したのはウクライナ保安局(作戦内容に詳しい情報筋の1人はそう主張した)。ロシア軍の核心を襲うのみならず、首都中枢に肉薄する攻撃となった。
スクーターの爆発で上級将官が殺害される事態は間違いなく、国内の治安強化を進めていたロシアにとって良い光景ではない。ただ今回の攻撃は、トランプ次期米大統領の返り咲きが迫り、ロシアが東部前線で着実に前進を続ける中、可能なあらゆる手段で戦争の主導権を取り戻そうとするウクライナの切迫感の表れでもある。
ウクライナや支援国の間では、キリロフ氏はロシア軍の放射線・化学・生物学防護部隊のトップとしてとりわけ破壊的な役割を担い、化学物質やCSガスなどの暴徒鎮圧剤の戦場での広範な使用に関与していた人物と目されている。また、ロシア国内で戦争への支持を維持する上で欠かせない偽情報を駆使する専門家でもあった。最後に公の場に姿を現した機会の一つとなった11月には、ロシア西部クルスク州に侵攻したウクライナの主要目標について、クルスク原子力発電所を奪取することにあると主張。ウクライナは放射性物質を使った「汚い爆弾」を開発する計画だとする2年来の陰謀論を再び持ち出した。
ロシア国内での軍事有力者の暗殺は、ウクライナの関与が直接的か間接的かを問わず、この戦争の特徴になってきた。昨年7月には、元潜水艦艦長のスタニスラフ・ルジツキー氏が南部クラスノダールでジョギング中に射殺されている。ただ、キリロフ氏の死は直近2カ月だけで4回目の事件となる。
10月にはロシア軍第52重爆撃機航空連隊のパイロット、ドミトリー・ゴレンコフ氏がロシアのブリャンスク州で撲殺された。ウクライナの治安筋がCNNに明らかにしたところによると、治安当局は11月中旬、クリミア半島セバストポリでロシア黒海艦隊のミサイル艦幹部を殺害した車爆弾に関与。1週間足らず前には、ロシアの火星設計局の幹部もモスクワの公園で射殺された。CNNの取材に応じたウクライナの治安筋はウクライナ政府の関与を確認し、ウクライナへ発射される巡航ミサイルの改修に関与した人物だと指摘した。
ロシア国防省のあらゆる職員と同様、キリロフ氏は替えがきく存在だ。彼の死を受けてロシアが化学兵器を巡る方針を突然転換する可能性は低い。ただ、ロシア国内で行われるウクライナの攻撃の多くがそうであるように、ここには情報戦の要素がある。どこにいようと個人は脆弱(ぜいじゃく)だとロシア軍やロシア国民に告げるシグナルであり、すべては計画通りに進んでいるという表向きの言説に風穴を開ける最新の試みだ。
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本稿はCNNのクレア・セバスチャン記者による分析記事です。