(CNN) 韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は2022年の大統領選で、韓国史上最小となる0.7ポイント差の僅差(きんさ)で勝利した。
当時、一部の有権者は他候補への嫌悪感が勝ったと記者に語っており、変化への信任を得たとは言いがたい状況だった。尹氏は政治経験の乏しい元検察官で、国内でも国外でも知名度は低かった。
英ロンドン大キングスカレッジのラモン・パチェコ・パルド教授は、「アウトサイダーの立場が党内での尹大統領の妨げになった」との見方を示す。
保守派の指導者ですら直ちに戒厳令に反対した理由はこれで説明がつくだろう。
尹氏の妻、金建希(キムゴニ)氏も絡む一連のスキャンダルは、脆弱(ぜいじゃく)な支持率をむしばんでいった。今回の戒厳令騒ぎの前に行われた韓国ギャラップによる直近の世論調査によると、尹氏の支持率はわずか19%に低迷していた。
野党「共に民主党」が過半数を握る国会で、尹氏は政策課題の推進に苦心している。有権者の目には、経済や不動産価格、低出生率、平等といった自分たちに重要な問題にほとんど進展がない状況と映る。
皮肉なことに、尹氏は16年、朴槿恵(パククネ)元大統領の弾劾(だんがい)訴追につながった汚職事件の捜査を率いたことで名声を獲得した。これも皮肉だが、尹氏が戒厳令宣布を正当化するために持ち出した理由の一つは、野党「共に民主党」による検察幹部の弾劾訴追案だった。
尹氏自身の弾劾を求める声は今後、ますます大きくなるだろう。これまで弾劾を求める声の中心にあったのは汚職疑惑で、何週間にもわたって尹氏の辞任を求めるデモが続いていた。
大統領就任後2週間足らずの時期に記者がインタビューした時、尹氏は机の上にあるバイデン米大統領から贈られたプレートを誇らしげに見せてくれた。そこには「責任は自分が取る(The buck stops here)」と書かれていた。
尹氏の身内の与党指導者からも説明を求める声が出る中、トルーマン元大統領のこの言葉は改めて重要性を帯びている。
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本稿はCNNのポーラ・ハンコックス記者による分析記事です。