ANALYSIS

独裁者からシリアを解放、反体制派の最大課題は統治方法の習得

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広場に集まりシリア政権の崩壊を祝うため銃を空に向けた人々=8日、シリア・ダマスカス
/Ali Haj Suleiman/Getty Images

広場に集まりシリア政権の崩壊を祝うため銃を空に向けた人々=8日、シリア・ダマスカス /Ali Haj Suleiman/Getty Images

(CNN) 祝福の銃声がシリアの首都ダマスカスの街路に鳴り響いた。アサド大統領の政権が崩壊してから数時間後の出来事だ。

だが、50年に及ぶ独裁に終止符を打った週末の歓喜の光景も、勝利に沸くイスラム反体制派組織が直面する課題の規模を覆い隠すには至らなかった。反体制派はダマスカスへ電光石火の進軍を行い、世界の注目を集めた。

中核組織「シャーム解放委員会」(HTS)に率いられたこれらの反体制派は今後、10年以上の内戦で引き裂かれた国の統一を試みなくてはならない。そこには重武装した数十の民兵組織と旧体制の残存勢力が今なお居座っている。

ダマスカスの陥落から数時間後に起きた混乱は、そうした課題の途方もない大きさをまざまざと思い起こさせた。

シリアの保健省は中東のテレビ局アルアラビーヤに対し、祝福のために発射された銃弾で少なくとも28人が死亡したと明らかにした。市民はアサド氏の大邸宅に押し入り、店舗で略奪を行い、中央銀行から現金入りのバッグを盗み出した。反体制派は13時間の外出禁止令を出さざるを得なかった。

祝福のために空に向かって発砲する人々=8日、シリア・ダマスカス

/Ugur Yildirim/AP
祝福のために空に向かって発砲する人々=8日、シリア・ダマスカス /Ugur Yildirim/AP

日暮れまでには散発的な流れ弾に加えて、空爆の音も静寂を破った。イスラエルはその後、「戦略兵器システム、残余の化学兵器装置、長距離ロケット弾」を攻撃したと発表。いずれもアサド政権の軍隊に所属するものだとした。

「銃撃は11時間続いた。4時間後に私は泣き崩れた。拷問されている気がしたから。銃撃が収まり始めると、今度はイスラエルが爆撃を開始した」。ダマスカスの高級地域に暮らす25歳の弁護士は、CNNにそう語った。安全上の理由から氏名を明かさず取材に応じた。

反体制派は長年この日を夢見てきた。しかしその反体制派でさえ、自分たちの進攻がこれほど迅速かつ容易に達成できるとは予想していなかったようだ。

今、反体制派は、シリアが抱えるパンドラの箱を開けまいと躍起になっている。権力の真空状態を回避し、混乱を未然に防ごうとしているが、50年続いた政権がものの数日で倒れた際にはその種の混乱が起きるのはほぼ避けられない。

「政権投げ出し」を計画していたアサド氏

現時点で、次の政権がどのような形で成立するのかは全く判然としない。

ダマスカスを掌握した後、反体制派はアサド政権のジャラリ首相に引き続き職務に就き、政権移行チームが任命されるまで内閣を率いるよう指示した。

しかしスカイニュースのアラビア語版のインタビューに応じた際、ジャラリ氏は将来の統治を巡る質問にほとんど回答しなかった。

同氏の閣僚も、同様に確たる答えを持っていない。アサド政権のハリル産業相はCNNとの電話インタビューに応じ、「我々は首相と話をした。方向性としては今後も作業を続けるべきということだった。通常の生活を必ず取り戻す。権力移行に向けた政府がこれから樹立されると聞いているが、それがいつになるのかは分からない」と述べた。

反体制派が直面する権力の空白状態は、アサド氏からの餞別(せんべつ)と見なすこともできる。

反体制派が2週間前に進攻を開始してから、アサド氏は公式声明を一切出していないが、見たところ「自らの政権と国民、国を投げ出し、混乱の中に放置すること」を既に計画済みだったようだ。情勢が悪化すればそうするつもりだったと、ジャラリ首相は述べた。「恐らく国民にメッセージを送る意図があったのだろう。『私か、混乱かのどちらかだ』と」

ジャラリ氏はモスクワへ亡命する数時間前のアサド氏に声をかけ、反体制派の動きに関する懸念を伝えた。しかしアサド氏は関心を示さなかったという。

「状況は致命的であり、人々はホムスを脱出して海岸へ逃げている、軍隊は崩壊している、そう伝えても答えは「明日我々が対応する」というものだった」「私は驚いた」(ジャラリ氏)

アルカイダから政治家へ

現時点で、シリアの直近の将来はHTSの指導者ジャウラニ氏(本名はアフマド・シャラア氏)と共にあるようだ。同氏は9日午前にジャラリ首相と会談した。

ジャウラニ氏は7日にダマスカスに到着。自身が育った街への20年ぶりの帰還だった。20年前、同氏は街を出て国際テロ組織アルカイダに加わり、イラクで米軍と戦った。4年間、シリアのアルカイダ系組織「ヌスラ戦線」を率いたが最終的にこれと決別。敵対する過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」との闘争を宣言し、その指導者の殺害で指揮を執った。

現在、ジャウラニ氏は変革と穏健化に関するメッセージを発信している。先週はCNNの取材に答え、シリアの武装した反体制派が最終的に計画していることとして、政府の樹立を挙げた。その政府は各関係機関と「国民が選ぶ評議会」によって定義されるという。

シリア中央銀行の前で警備に当たる反政府勢力=9日、ダマスカス
/Louai Beshara/AFP/Getty Images
シリア中央銀行の前で警備に当たる反政府勢力=9日、ダマスカス /Louai Beshara/AFP/Getty Images

ジャウラニ氏が率いる集団は、今回の進攻に加わった多くの反体制派グループの中でもより組織化された部類に入る。過去4年間には、北部イドリブ県に半技術系官僚で構成する「シリア救国政府」を設置し、400万人を統治してきた。救国政府に所属する政治家は既に国内の主要都市へ派遣され、統治に当たっている。そこには先週制圧したシリア第2の都市、アレッポも含まれる。ダマスカスでは自前の警官隊を配備し、街中の治安を確保しようとしている。

「イドリブ県は小さく、資源もないことを念頭に置いてほしい。我々はそこで、これまで多くのことを成し遂げてきた」。今後の権限移行チームに関する協議の中で、ジャウラニ氏はジャラリ首相にそう告げた。

とはいえ、当該のイスラム組織が広大な領土を支配下に収めたことは一度もない。その領土は多様な宗教と少数民族、武装した反体制派勢力を数多く抱える一方、資源には乏しい。

米シンクタンク、ワシントン近東政策研究所の上級研究員、アーロン・Y・ゼリン氏は「イドリブ県は統治する領域としては格段に小さい。人口の4分の3は避難民なので、国連や非政府組織(NGO)から支援の提供を多く受けられる」「HTSは人口の4分の1のみに注力すればよかった」と指摘した。

そのイドリブ県においてさえ、ジャウラニ氏は政治的脅威を排除する取り組みに数年を要した。その間、統治対象の住民からは、生活状況や不当な拘束に対して抗議の声が上がった。

現在同氏は、権限の移行を経てシリア国民2500万人を統治する政権を打ち立てようとしている。内戦中に国外へ脱出した600万人もそこに加わる。

支持者らの歓迎を受ける「シャーム解放委員会」(HTS)の指導者ジャウラニ氏=8日/Abdulaziz Ketaz/AFP/Getty Images
支持者らの歓迎を受ける「シャーム解放委員会」(HTS)の指導者ジャウラニ氏=8日/Abdulaziz Ketaz/AFP/Getty Images

それではまだ足りないとでも言うように、ジャウラニ氏は一方でトルコの支援する数十の武装組織への対処も迫られる。それらの組織は政権移行期に脇へ追いやられるのを拒むかもしれない。またシリア北東部では強力なクルド人の武装グループが領土を広範囲に支配している。

さらにはイランを後ろ盾とする強力な民兵組織が隣国イラクにいるのも懸念材料だ。

「誰であれアサドよりまし」

ダマスカスの住民はCNNの取材に答え、アサド氏が去ったことを喜びつつも反体制派が掲げるイスラム教のイデオロギーに関しては依然として不安が残っていると語った。

例えばアラウィ派、イスマイル派、ドゥルーズ派、キリスト教徒のような宗教的な少数派は、シャリーア(イスラム法)が厳格に適用される可能性について対処せざるを得ない。既に反体制派はそれを実行する意向を明言している。

ジャウラニ氏は先週、CNNのインタビューに対し、キリスト教徒やドゥルーズ派などの少数派は「安全」であり、ダマスカスの数日前に制圧したアレッポでは「教会も家屋も」保護されたと述べた。

人権団体も懸念を表明しており、一部の団体はHTSなどの反体制派が支配地域で意向に従わない人々を拷問・虐待していると非難する。支配地域は北西部のイドリブ県、西部のホムス県、アレッポ県の各地域を含む。

とはいえダマスカスには、警戒しつつも楽観的な見方を示す人が多くいる。2児の母のラニムさん(45)もその一人で、「誰であれアサドよりはまし」と言い切る。

「国民はもう生きていけないところまで追い込まれた。ここまで来たら、誰の支配も受け入れるだろう」(ラニムさん)

暮らしはまだ元に戻っていないと認めるラニムさんだが、今後しばらくは様子を見てみるつもりだ。

「人々はイスラム教支配や反体制派の派閥を不安に思っている。でも私に言わせれば、50年間アサドの支配に耐えてきたのなら、命を投げ出して私たちの解放に力を尽くしてくれた人たちにチャンスを与えない手はない」

本稿はCNNのモスタファ・セーラム記者による分析記事です。

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