空の旅の「黄金時代」、超豪華な機内サービスの中身とは

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盛装して飲食を楽しむ1958年のルフトハンザ航空ファーストクラスの乗客ら/Airline: Style at 30,000 Feet/Keith Lovegrove

盛装して飲食を楽しむ1958年のルフトハンザ航空ファーストクラスの乗客ら/Airline: Style at 30,000 Feet/Keith Lovegrove

(CNN) カクテルラウンジに5品のコース料理、氷の彫刻から出されるキャビアに止めどなく注がれるシャンパン。1950年代から70年代まで続いたいわゆる「旅行の黄金時代」は、機内で過ごす時間も今とは全く違っていた。その魅力と豪華さは、今も当時を知る人々の記憶に残っている。

航空史研究家で作家のグレアム・M・シモンズ氏は、「当時の空の旅は特別なものだった」とし、「豪華で、スムーズで、速かった」と付け加えた。

「人々は飛行機に乗るために着飾り、客室乗務員も文字通りオートクチュールの制服を着ていた。シートピッチ(座席の前後の間隔)も今よりはるかに広く、恐らく36~40インチ(90~100センチ)はあった。現在は1人でも多くの乗客を乗せるために28インチ(約70センチ)まで狭まった」(シモンズ氏)

黄金時代

1964年のファーストクラスの機内で、ローストビーフを取り分ける客室乗務員/Airline: Style at 30,000 Feet/Keith Lovegrove
1964年のファーストクラスの機内で、ローストビーフを取り分ける客室乗務員/Airline: Style at 30,000 Feet/Keith Lovegrove

乗客数は今日に比べてはるかに少なく、運賃は高すぎて庶民には手が届かなかったが、裕福な航空会社は座席数を増やすことなど頭になく、ひたすら快適さの向上に努めた。

「50年代初頭は船旅会社との競争にさらされていたため、航空会社はフライトを豪華な輸送手段として売り込んでいた」(シモンズ氏)

「そのため機内には複数のラウンジエリアがあり、コース料理は4品か5品、時に6品あった。(ギリシャの)オリンピック航空はファーストクラスのキャビンで金メッキのナイフやフォークを使用していた」とシモンズ氏は言う。

また米国の一部の航空会社は、乗客が時間をつぶせるように通路でファッションショーを開いていたという。

さらにエールフランス、オリンピック航空、シンガポール航空は、クリスチャン・ディオール、シャネル、ピエール・バルマンといった有名ブランドと協力し、乗務員の制服をデザインしていた。

当時、客室乗務員(70年代までスチュワーデスと呼ばれていた)はあこがれの職業で、ほとんどの乗客が彼女たちの着こなしや身のこなしをまねようとした。

細かいことは気にしない

パンナムの機体の前でポーズを取るモデルの女性。1947年撮影/Ivan Dmitri/Michael Ochs Archives/Getty Images
パンナムの機体の前でポーズを取るモデルの女性。1947年撮影/Ivan Dmitri/Michael Ochs Archives/Getty Images

「(飛行機に乗るのは)まるでカクテルパーティーに行くような感覚で、シャツにネクタイにジャケットを着て行った。今はばかげていると感じるだろうが、当時はそれが当たりまえだった」と語るのは、デザイナーで作家のキース・ラブグローブ氏だ。

ラブグローブ氏は、まだ子どもだった60年代に家族とともに飛行機に乗り始めた。ラブグローブ氏の父が航空業界で働いていたこともあり、ファーストクラスに乗ることも多かったという。

ラブグローブ氏と兄弟は、ジャンボジェット機に乗り込むと、真っ先にらせん階段で2階に上り、カクテルラウンジに座った。当時は機内でたばこが吸えたし、アルコールも無料で提供された。

そしてラブグローブ氏らがまだ飲酒年齢に達していなかったにもかかわらず、夕食前にシェリー酒、そしてシャンパン、さらに食後には恐らく食後酒が提供されたという。

ラブグローブ氏は「数時間機内に閉じ込められたが、信じられないほどの自由を感じた」と当時を振り返る。

また、このくつろいだ雰囲気はセキュリティーにも及んでいた、とラブグローブ氏は言う。

かつてラブグローブ氏が家族と英国から中東に向かう飛行機に乗った時、ラブグローブ氏の母が、ペットとして飼っていたセキセイインコを靴箱に入れ、手荷物として機内に持ち込んだ。

母は、呼吸用に開けた2つの穴から、コース料理の付け合わせのレタスをインコに与えたという。今、機内でそんなことをしたらただでは済まないだろう、とラブグローブ氏は言う。

「非の打ちどころのないサービス」

パンナムの乗客にシャンパンを提供する客室乗務員/Tim Graham/Getty Images
パンナムの乗客にシャンパンを提供する客室乗務員/Tim Graham/Getty Images

旅行の黄金時代の航空会社として最もよく名前が挙がるのがパンアメリカン航空(パンナム)だ。パンナムはボーイング707と747を世界で初めて導入し、当時は大洋横断ルートで業界のトップを走っていた。

「食事は素晴らしく、サービスも非の打ちどころがなかった。ファーストクラスには白鳥の氷像があり、そこからキャビアを取って乗客に提供した。食事はマキシム・ド・パリ(有名なフレンチレストラン)から提供されていた」と語るのは、1968年からパンナムが倒産した91年まで同社で客室乗務員として勤務したジョアン・ポリカストロ氏だ。

ポリカストロ氏は、乗客たちが食事の後、ファーストクラスの前のラウンジにやってきて雑談をする様子を今でも覚えている。当時は乗務員もラウンジで乗客と雑談をすることが多かったという。

67年からパンナムで客室乗務員をしていたスージー・スミス氏も、ラウンジで乗客らと過ごした思い出がある。その乗客の中には、ビンセント・プライスやラクエル・ウェルチなどの俳優やアンカーマンのウォルター・クロンカイト、さらにモナコ公妃のグレース・ケリーといった有名人もいた。

贅沢な世界

ロッキード・スーパーコンステレーションの機内でビュッフェを利用する乗客/Mondadori via Getty Images
ロッキード・スーパーコンステレーションの機内でビュッフェを利用する乗客/Mondadori via Getty Images

ボーイング747の2階のラウンジは、そのうちダイニングルームに改装された。さらにしばらく後にはダイニングルームも撤去し、ファーストクラスの座席が配置された。

ファーストクラスでは、レストラン並みのサービスが提供された。

パンナムの客室乗務員だったスミス氏によると、最初にカナッペを出し、続いてベルーガ・キャビアやフォアグラなどの前菜、さらに大きなサラダボウルをカートに載せて運び、自分たちで混ぜてから乗客に提供したという。

また、シャトーブリアン、ラムラック、ローストビーフなど、何らかのロースト肉が必ず提供されるが、それらの肉は生の状態で機内に運び込まれ、客室乗務員がギャレー(調理室)で調理したという。

調理した肉は別のカートで運び、乗務員が通路で切り分けた。それ以外に最低5品の主菜、チーズとフルーツのカート、デザートのカートがあり、さらに高級シャンパンのクリスタルかドンペリニヨンも振る舞われたという。

エコノミークラスのサービスもさほど悪くはなかった。

スミス氏によると、エコノミークラス用の食べ物はアルミ製の鍋に入った状態で機内に運ばれ、乗務員が調理と盛り付けを行ったという。またトレーも大きく、本物のグラスが使われていた。

しかし、全てが完璧というわけではなかった。当時は機内での喫煙が認められていたため、キャビンにたばこの煙が充満し、客室乗務員らを落胆させた。しかし機内での喫煙は80年代から徐々に禁止された。

懐かしい思い出

ロッキード・スーパーコンステレーションのファーストクラスの座席=1950年代初め/Airline: Style at 30,000 Feet/Keith Lovegrove
ロッキード・スーパーコンステレーションのファーストクラスの座席=1950年代初め/Airline: Style at 30,000 Feet/Keith Lovegrove

かつて多くの航空会社に、客室乗務員を採用する際の厳しい身体的要件があり、客室乗務員はスリムな体形を維持しないと解雇される恐れがあった。

また安全性は今日とは比較にならないほど低かった。米運輸統計局(BTS)によると、米国内で発生した民間航空機事故の件数は2019年の1220件に対し、1965年は5196件もあった。また、10万飛行時間あたりの死亡事故の件数も2019年の1.9件に対し、1965年は6.15件だった。

ハイジャックも当時は頻繁に発生し、1969年だけで50件以上発生した。運賃も今と比べてはるかに高く、シモンズ氏によると、60年代初頭の大西洋横断飛行の航空券の価格は約600ドルだったという。現在の価値に換算すると約5800ドル(約77万円)だ。

それでも当時を懐かしむ人は多く、特にパンナムは今でも空の旅の最高峰として人々の記憶に残っている。

パンナムが1991年にその歴史に幕を下ろした時、黄金時代は既に遠い過去のものだった。規制緩和により80年代からは、かつてほどの華やかさこそないが、運賃が手頃で利用しやすい民間航空が主流となっていた。

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