巨大カイトで貨物船を曳行、航海中のCO2排出量削減目指す
英プリマス大学で機械工学および海洋工学設計を教えるリチャード・ペンバートン博士も、「全く疑問の余地なく、技術的には稼働できる」と太鼓判を押す。
博士はドイツのスカイセールズ社を例に挙げた。同じくこの会社もカイトを使った船舶推進装置を10年以上前から開発し、試験を行っている(先ごろ、スカイセールズ社の親会社は海上研究部門を海運業コンソーシアムに売却した)。
「風力アシスト型海運の問題は、風向きと船の目的地にかかっている」とペンバートン博士は言う。「船が向かう方向の真正面から風が吹いてきている場合、十分に効果を発揮できる風力装置はまだ世に出ていない」
向かい風の状態ではシーウィングも使用できず、機能させるには少なくともある程度風がなくてはならない。だがベルナテット氏は、「世界の海運業の70~80%で」燃料を20%削減し、太平洋や大西洋の航路、南北航路に計り知れない恩恵をもたらす可能性があると言う。
業界からの支持
ペンバートン博士の考えでは、最大の難関は業界がこの技術を受け入れられるかどうかだ。「二酸化炭素の排出量の大幅な削減になることは、100%間違いない。だが果たして広く受け入れられるだろうか?」
業界で受け入れられるためには費用が重要で、石油価格が大きく左右してくる。「過去を振り返ると、石油価格が高騰すると必ず風力アシスト海運への関心が高まっている」とペンバートン博士は言う。
燃料費の高騰が船舶所有者のシーウィング導入の動機づけになる、という点ではベルナテット氏も同じ意見だ。同氏は実際の導入費用について明らかにしなかったものの、顧客が燃料費削減コストを回収するには通常2~5年かかるだろうと述べた。また船舶がグリーン燃料に切り替える際、削減費用は膨大な額になるだろう。グリーン燃料はエネルギー密度が低いため、化石燃料よりも高価でスペースも取る。
「未来のグリーン燃料を大きく後押しすることにもなるだろう」とベルナテット氏。「我々の技術はグリーン燃料の早期導入の実現を可能にする。コストの一部を抑えることで燃料の競争力が高まるからだ。それだけでなく、航行に必要なグリーン燃料の量も低減できる――現時点ではそこが一番のハードルだが。何しろ燃料用のタンクが大きければ大きいほど、運べる貨物は少なくなるのだから」
ベルナテット氏にとってはそこがチーム最大のミッションだ。「我々は海上輸送のカーボンフットプリント削減に貢献したいと思っている。だからこそこうしてエネルギーを注ぎ込み、次のステージへと向かっている」
「風力が次にくるのは絶対間違いない。海上輸送に大きな変化をもたらし、おそらくは革命を起こすだろう」