遺体が横たわるエベレスト、それでも登頂を目指す理由とは
「あの場所で生き残るのは難しい」
登山家たちが最初に目指すのは標高約5150メートルにあるベースキャンプで、たどり着くまでに2週間ほどかかる。その後、残り三つのキャンプへと登っていく。
登頂前の最後のキャンプである第4キャンプは標高約7900メートル、デスゾーンの端に位置する。登山者は極端に薄い空気、氷点下の気温、そして人を山から吹き飛ばすほどの強風にさらされる。
ウィーゼルさんは登山者の遺体のそばを通ったことを思い返し、「あの場所で生き残るのは難しい」とCNNに語った。亡くなった登山者の遺体は保存状態がよく、強烈な寒さのためにほとんど腐敗しない。
高地脳浮腫(HACE)は登頂を試みる登山者が直面する最も一般的な病気の一つだ。
HACEは、安定した酸素濃度を取り戻そうとして脳が膨張し、眠気や発話障害、思考障害を引き起こす。かすみ目や散発的な妄想を伴うことも多い。
ウィーゼルさんは友人の声が背後から聞こえてくるような幻聴や、子どもたちや妻が岩から顔をのぞかせたような幻覚も見えたという。
ウィーゼルさんは、負傷のため山に取り残されていた友人のオリアンヌ・エマールさんとすれ違ったことを思い返した。エマールさんは生き延びたが、救助されたとき、手にはひどい凍傷を負い、足の骨が何本も折れていた。こうしたけがにもかかわらず、エマールさんは幸運な人だと捉えられている。
エベレストの山頂をめざして山を登る登山者たち=21年、5月7日/Pemba Dorje Sherpa/AFP/Getty Images
「遺体が山に凍り付く」
エベレストは長い間、過酷な環境条件や斜面での事故に屈した登山者たちの墓場になってきた。
2014年にエベレストに登頂した山岳コーチのアラン・アーネットさんによれば、大切な人や仲間が登山中に重傷を負ったり死亡したりした場合、救うことができなければ置き去りにするのが慣例だという。
アーネットさんは「ほとんどのチームはその登山者への敬意から、遺体を見えない場所に移動させる」と話す。ただし、それは可能な場合に限られる。悪天候のため、あるいは遺体が山に凍り付いてしまうため、移動するのが現実的でない場合もあるという。
ガイドをしていた12人のシェルパが雪崩によって死亡した、エベレスト史上最悪の死亡事故から10年。23年はエベレストで最も死者が多い年となり、18人が死亡、うち5人はいまだ行方不明だ。