滑走路が溶けていく――世界最北端の空港で起きていること
石炭からの脱却
スバールバル諸島は石炭が豊富に埋蔵され、その採掘で発展した。1920年に米国、日本、欧州諸国が署名したスバールバル条約では、ノルウェーの領有権とともに、他国による経済活動の権利も認められた。20世紀前半にはノルウェーとスウェーデン、旧ソ連がここで炭鉱を運営していた。
スバールバルは暖房や電力供給向けの石炭消費も多かった。
だが近年は環境意識が高まり、石炭依存への風当たりが強くなった。特に、ノルウェー本土はほぼすべての電力を再生可能エネルギーでまかなっているからなおさらだ。
この10年で、ノルウェー系の炭鉱は次第に生産を縮小し、最大級の規模を持つスベアグルーバ炭鉱も2020年に閉鎖された。同諸島第二の都市、バレンツブルクでロシアが操業する炭鉱は稼働中だが、生産縮小が報じられている。
ロングイェールビーンの石炭火力発電所は23年に閉鎖され、ディーゼル発電に切り替えられた。温室効果ガスの排出は依然として続くものの、石炭時代の半分近くまで削減された。
しかし、ロングイェールビーンなどノルウェー国内の40カ所で空港を運営する国営企業、アビノールにとっては十分な削減とはいえない。アビノールは政府の方針に沿って、航空業界の排出量を30年までに22年比で42%、50年までに同90%削減することを目指している。
そこで登場したのが、スバールバル空港専用のバイオガス発電所を新設するという解決策だ。
暗闇の魅力
政府の承認手続きが完了し、計画通りに進めば、新たな発電所は今年末から来年初めにかけて運転を開始する見通し。ロングイェールビーンの電力網にも接続され、ディーゼル発電所が故障した場合のバックアップとしても機能する。
石炭産業がほぼ消えた後、スバールバルは主な経済活動として観光業に目を向けている。70以上の観光関連業者を代表する業界団体「ビジット・スバールバル」のロニー・ブルンボル最高経営責任者(CEO)によると、かつては冒険志向の旅行先だったスバールバルだが、最近は一般的な旅行者も増えている。
もともと夏はいくつものクルーズ船が訪れるハイシーズンだが、冬にオーロラを見に来る人や、日が長くなり始める早春に犬ぞりやスノーモービルを楽しむ人も多くなった。

スバールバルでは冬季でさえも観光客が増加している/Maja Hitij/Getty Images
一方で、旅行者が押し寄せて観光公害が生じることへの懸念も認識されている。スバールバルの宿泊施設は500室までに制限され、今後変更される見込みはない。
スバールバルにとって観光は石炭に代わる経済の要かもしれない。だが現地の観光業界も当局も、ここならではの手つかずの自然を守るという責任を、十分に心得ているようだ。