欧州のスキーリゾートで富裕層に仕える「シャレーガール」、どんな仕事なのか
良家の子女の仕事?
「シャレーガール」は当初、上流階級の出身者ばかりとされていた。
貴族がシャレーで休暇を過ごすようになった時代、「その子どもたちがパパとママの家、あるいはパパ、ママの友人の家を管理していた」のが始まりだと、スタート氏は説明する。
スキーはお金のかかるレジャーだ。気候変動で標高の低いリゾートがやっていけなくなったこともあり、費用はますますかさむばかり。シャレーでの仕事は賃金が低く、ゲレンデに近いことが大きな魅力となっているため、当然ながらスキーの上級者が集まる。
フランスのシャレースタッフは、同僚たちについて「とても裕福な家庭の出身者が多い。英国人は特にそうだ」と明かし、「英国からのゲストは、シャレースタッフが当然上流育ちだろうと思っているようだ」と語った。
スタート氏もCNNに「スキーはすっかり高嶺(たかね)の花になっている」と話し、「スキーになじみがなければ働きに来ない。必然的に、家庭が裕福ということになる」との見方を示した。
「シャレーガール」の具体的な仕事は?

クラウザーさんがシェフとしてシャレーで働いていたときの様子/Sophie Crowther
シャレーガールの職場が豪華なことは間違いない。サウナやワインセラーが完備され、貴重な芸術作品が飾られ、ラクレットチーズ料理専用の部屋が設けられていることも珍しくない。
とは言え、ホスト役がゲストと同じぜいたくを味わえるわけではない。
朝の出勤は雪の中、20~30分かけて山を登るケースが多い。クラウザーさんはレ・ジェのシャレーで働いていた時、バーの地下に寝泊まりした。「朝4時まで眠れない日もあった」「耳栓が必要だった。眠れない者同士、仲間の絆が生まれた」と振り返る。
仕事は午前7時前に始まり、深夜0時すぎまで続くことも多い。この間にゲストの食事やスキー用具、飲み物を用意し、掃除をしてベッドを整え、ほかの作業もこなしながら、ゲレンデに出る時間をひねり出そうと試みる。
ゲストからは、1人3000ドル(約43万円)以上の宿泊費に見合うだけのサービスを期待される。
前出のホッグさんは「ノーとは言えない。そういうハイレベルのサービスだ」と語る。
ゲストがゲレンデに出ている間にシャレーの施設をこっそり使おうとすれば、職を失い、寝泊まりする場所もなくす可能性が高い。
スタッフの採用で重要なのは「人柄」だと、スタート氏は強調する。「毎晩ディナーパーティーを開けるような人柄と品性、経験が必要。それが基本の要素だ。こまごまとした作業や家事をすべてこなせることも必要だが、要は人柄に尽きる」という。
賃金は一般にそれほど高くなく、月に1000ポンド(約19万円)前後という報告もある。労働時間を考えると、英国の最低賃金を下回るかもしれない。通常はさらにチップが加算され、これが月々の賃金を上回ることもある。宿泊費とスキー用具、リフト券は含まれているのが一般的だ。
シャレースタッフは生まれて初めて実家を離れた若者が多く、長時間労働や要求の多いゲストにストレスを感じることもある。
ホッグさんは「気分が上がる時と、ひどく落ち込む時があった」「寝室に踏み込んだら中がめちゃくちゃで、もう無理と思ったことを覚えている」と話す。
当時を思い返し、「それでも自分は山にいるのだと思い直すしかなかった。そんな気分の浮き沈みのおかげで、やり抜くことができたと思う」と語った。