ワシントン(CNN) ロシアによるいわれのないウクライナ攻撃に対し、西側の主要国は一斉に非難の声を上げている。
対ロシア制裁やウクライナへの支援は多方面から行われているが、北大西洋条約機構(NATO)加盟国でないウクライナに軍隊を投入することは、米国や他の西側同盟国にとって越えがたい一線となる。
米国のトーマスグリーンフィールド国連大使は2月27日、CNNに対し、バイデン政権はウクライナに米軍を投入しない方針を明確にしてきたと説明。「米国人兵士を危険にさらすつもりはない」と述べた。
だが、この他に米国がウクライナに派兵しない要因としては何が挙げられるだろうか。以下に知っておくべきことを記す。
なぜ米国はウクライナに軍を派遣しないのか?
米国はあらゆる機会にロシアの行動を非難しているものの、バイデン大統領は米軍がウクライナ入りしてロシアと直接交戦することはないと努めて強調してきた。
なぜか。バイデン氏が今月NBCに説明したように、「米国とロシアが撃ち合いを始めれば、それは世界大戦になる」からだ。言い換えれば、米国がこの紛争に介入すればグローバルな戦争を引き起こす可能性がある。
CNNの国家安全保障・軍事アナリスト、マーク・ハートリング退役中将は27日、「外交で重要なのは戦争の可能性を制限することだ。ロシアによる現在の違法なウクライナ侵攻は悲惨で混乱した破滅的なものだが、現時点では地域紛争にとどまる」との見方を示した。
「もしNATOや米国がウクライナに派兵してロシアとの戦闘を支援した場合、米ロ両国は核保有国であることから、グローバルな影響を及ぼしうる多国間紛争に力学が移行することになる。このため米国やNATO、世界の他の国々は、別のタイプの支援によりウクライナの成功とロシアの敗北に関与しようと試みている」(ハートリング氏)
欧州駐留米軍についてはどうか?
米国はロシアによるウクライナ侵攻の開始前と開始後、欧州全域に数千人規模の部隊を派遣した。
CNNの記者の27日の報道によれば、欧州に一時派遣された陸軍兵士4000人超については任務がおそらく数週間延長される見通し。東欧の同盟国に安心感を与える試みの一環となる。
ただ、こうした兵士はロシア軍と戦うために欧州にいるわけではない。
バイデン氏は24日、ホワイトハウスでの演説で、米軍は「ウクライナでのロシアとの紛争に関与していないし、これからも関与しない」と述べた。
そのうえで、米軍の任務はむしろNATO同盟国を防衛し、東方の同盟国に安心感を与えることにあると指摘。「私が明確にしたように、米国は総力を挙げてNATOの全領域を守る」とした。
米国とロシアが直接交戦するシナリオはあるのか?
ウクライナはポーランドやスロバキア、ハンガリー、ルーマニアといったNATO加盟国と国境を接している。ロシアがそのどれか1カ国を脅かした場合、米国はNATO条約第5条に基づき、仏独英などのNATO30カ国と共同で対応をする必要が出てくる。
NATO条約第5条では、いずれか1加盟国を守るために同盟全体のリソースを使用できると保証している。第5条が発動された最初にして唯一の事例は2001年9月11日の米同時多発テロ後で、その結果、NATOの同盟国がアフガニスタン侵攻に加わることになった。
米軍はウクライナ上空での飛行禁止区域設定に協力するか?
トーマスグリーンフィールド氏は27日、ウクライナ上空での飛行禁止区域の設定に米国のパイロットを投入することはないと語った。
同氏は米軍のウクライナ派遣を控えるバイデン政権の姿勢について、「我々は米軍を上空に投入する考えもないが、ウクライナに自衛の能力を与えるための協力はする」としている。
一部のウクライナ当局者はNATO諸国にウクライナ上空の「閉鎖」を求めているが、飛行禁止区域を設定すれば米国がロシア軍と直接関与することになり、それはホワイトハウスにとって明らかに望ましくない事態だ。
米国は他にどのような方法でウクライナを支援しているのか?
ブリンケン国務長官は26日、ウクライナへの3億5000万ドル(約400億円)規模の新たな軍事支援を承認した。
ブリンケン氏の声明では「ウクライナが勇気と誇りをもってロシアの激しい一方的な攻撃に立ち向かっている今日、私は大統領からの委任に従い、ウクライナ防衛の即時支援に充てる最大3億5000万ドル規模の前例のない第3回大統領拠出を承認した」としている。
政権当局者によると、これ以前にも6000万ドルと2億5000万ドルの拠出が行われており、ここ1年間での総額は10億ドルを超えるという。
このほかブリンケン氏は26日、ロシア侵攻の被害者を支援するため、5400万ドル近い人道支援をウクライナに送るとも発表した。
米国はどのような方法でロシアに罰を与えているのか?
一言で言えば制裁だ。
米国などの西側諸国はロシアの銀行、航空宇宙、ITセクターを対象に、数回にわたる制裁を科した。以下のような複数の産業にまたがる措置を実施している。
・大手銀行に対する資産凍結
・重要な鉱業、輸送、物流分野の企業に対する債務や株式の制限
・ロシアの主要な軍事、産業セクターによる重要技術へのアクセスを遮断する大規模な試み
25日には米国や欧州連合(EU)、英国、カナダが、ロシアのプーチン大統領やラブロフ外相に直接制裁を科すと発表した。
また米国と欧州委員会、フランス、ドイツ、英国、カナダは26日、世界の金融機関を結ぶ高セキュリティーネットワーク「国際銀行間通信協会(SWIFT=スイフト)」からロシアの一部の銀行を排除するとも発表した。
「制裁や封鎖、経済的影響の行使、プーチン氏の行動に対抗する連合の構築を行うとともに、ウクライナに武器その他の支援を供与することで、事態の激化や意図せぬ世界的な影響を防げるものと期待している」(ハートリング氏)
世論の動向は?
ロシアの侵攻前に行われた世論調査によると、米国民はロシアとウクライナの紛争に米国が介入することに慎重姿勢を示している。
AP通信と全国世論調査センター(NORC)の調査では、ロシアとウクライナの情勢で米国が大きな役割を果たすべきと答えた米国人はわずか26%。小さな役割を果たすべきと答えたのは約半分の52%、関与すべきではないと答えたのは20%だった。
民主党支持者の32%、共和党支持者の22%は米国が大きな役割を果たすことを望むと回答した。米国は関与すべきではないとした人の割合は無党派層で最も多い32%に上り、共和党支持者では22%、民主党支持者では14%だった。