北京(CNN) 北京冬季五輪の開幕が近づくなか、2つの開催都市について多くの言及がなされた。ひとつは、厳しく閉ざされた、五輪の大会が行われる「バブル」の内側の街。そして、外側の街では日々の生活がいつものように続く。
しかし、過去2週間で世界が目にしたのも2つの全く異なった五輪だった。中国にとっては、すべての予想を上回る大成功を収めた北京五輪。中国以外の世界にとっては五輪は依然として深い意見の対立を生むイベントであり、中国の台頭だけでなく、批判に対する抵抗や反発ができる自己主張を強めた姿を映し出していた。
慎重に管理されたバブルの中では、至る所にマスクがあり、絶え間なく消毒剤がまかれ、厳格な日々の検査が実施されたが、これらが報われた。国内に持ち込まれた感染はすばやく検知され封じ込まれたことで、世界各地で新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」が猛威を振るうなかでも、五輪はほとんど新型コロナウイルスの感染者を出すことなく開催された。
中国はメダルの獲得でも金メダル9個をはじめとする計15個のメダルを獲得して、冬季五輪としては過去最高の成績を記録した。女子フリースタイルの谷愛凌(アイリーン・グー)やスノーボード男子の蘇翊鳴(スーイーミン)といったスター選手も現れた。
国際オリンピック委員会(IOC)によれば、16日までに、中国の全人口の40%に相当する6億人近くが競技をテレビで観戦した。米国では過去の五輪と比較して視聴者数は大きく落ち込んだものの、中国での視聴者の増加によって、今年の北京五輪は冬季五輪としては史上最も多くの視聴者を獲得した大会となる可能性が高い。
大会マスコットの「ビンドゥンドゥン」も国内で成功を収めた。最初に発表されてから2年以上経過してもほとんど無視された状態だったものの、大会期間中、人気が高まり、中国のSNSでも繰り返し話題に上った。
大会マスコットの「ビンドゥンドゥン」は国内で人気に/Richard Heathcote/Getty Images
中国共産党と習近平(シーチンピン)国家主席にとっても国内の観客が最も重要なものだった。習主席は北京市の五輪開催への取り組みを支援し、準備作業の視察のためにアイスリンクやスキーコースを何度も訪れた。習主席は大会の成功によって、国が一体となる瞬間を迎えた。習主席は今秋迎える前例のない3期目に向けて準備を進めている。
しかし、中国政府にとって、国内での成功の一部は大規模な政治的な醜聞や不祥事を避けることから来ている。ロシアの10代のフィギュアスケート選手をめぐる薬物陽性問題が大会に影を投げかけたものの、中国国内では大きく扱われることはなかった。五輪全体に対する批判も同様で、多くが検閲を受けるか閲覧が禁止された。
大会の初期段階では、西側諸国の多くの選手が、到着した北京の厳しい新型コロナ対策の制限に驚いた。陽性反応を受けて数週間の隔離になる人もいれば、隔離期間中の味気ない食事に文句を言う人もいた。だがこうした批判は――ベルギーの選手からの感情的な助けを求める声も含めて――中国国内では全く報じられなかった。
代わりに中国国営メディアが熱心に共有したのは、選手が選手村内部の生活をポジティブに伝えたソーシャルメディアの動画や投稿、コメントで、食事や新型コロナ対策、友好的なボランティアを称賛する内容だった。
北京市の当局者にとって最も安堵(あんど)したことは1人の選手もあるいは出席者も中国の人権問題に関し公に抗議を行う場として五輪を利用しようとしなかったことだ。これは五輪開催に向かうなかで議論を引き起こす恐れのある問題となっていた(ただし、一部からは批判的な見方が提示された)。
米国や同盟国は昨年12月、新疆ウイグル自治区でのウイグル族のイスラム教徒に対する弾圧を理由に、北京五輪の「外交ボイコット」を発表していた。米政府はこうした弾圧をジェノサイド(集団殺害)と呼んでいる。しかし、開会式で西側諸国の指導者の不参加が目についたことを別とすれば、外交ボイコットの影響を現場で感じることはほとんどなかった。
「北京にいない人物の話は書けない。これが外交ボイコットに付随する問題だ。一度大会が始まれば何も話が出てこない」と語るのは米ミズーリ大学セントルイス校の中国スポーツや五輪の専門家スーザン・ブラウネル氏だ。
「政治問題が背景へと消えること、スポーツが見出しを飾り、少なくとも一般の観客の記憶に残るのはこうしたスポーツであることは最初から予測していた。概ねそういう状況になったと思う」とブラウネル氏は語る。