攻勢に出る
しかし、中国政府は、政治的な議論が沈静化するのをただ待つことはなかった。中国政府は攻勢に出て、五輪を中国の政治的メッセージを押し出し、批判に反論するために利用した。中国政府自身が繰り返し、西側諸国が五輪を「政治化」していると非難しているにもかかわらずだ。
中国国営メディアは、五輪開幕前の聖火リレーに、死者も出たインド軍との国境での衝突に関与していた中国軍兵士が参加したと報じた。インド政府はこの報道を受けて、外交ボイコットを決めた。
開幕式の最後を飾るために選ばれたのはほとんど無名のウイグル族のクロスカントリーの選手で、聖火台に点火を行った。中国国外の大部分では、ウイグル族を点火者に選んだのは、ウイグル族の取り扱いに対する批判に反論するための中国政府の意図的な試みとみなされている。
中国の女子テニスのスター選手で五輪に3度出場した彭帥(ポンショワイ)さんも姿を見せた。彭さんは共産党幹部の性的暴行を訴えた後沈黙し、世界から心配の声が寄せられる事態となっていた。
五輪中、彭さんはIOCのバッハ会長と夕食をともにし、フランスのスポーツニュースサイトのインタビューを受けた。インタビューでは性的暴行で誰かを告発したり、公の場から姿を消したりしたことはないと否定した。彭さんはカーリングやフィギュアスケート、フリースタイルスキーの試合などで中国選手が出場するのをスタンドから見守る姿も見られた。
彭帥さんが大会に姿を見せた/Richard Heathcote/Getty Images
こうした相次ぐ彭さんの行動は世界の見出しを飾った。そして以前姿を現したときと同様に、彭さんの自由に対する大きな懸念を鎮めるには至らなかった。だが、中国国内では、国営メディアは一切これに関する報道を行わず、ソーシャルメディア上でも共有が行われなかった。ソーシャルメディアでは依然彭さんの名前が検閲の対象となっている。
五輪が終わりに近づくにつれて、政治的なメッセージはさらに好戦的になった。
北京冬季五輪大会組織委員会の厳家蓉報道官は17日の記者会見で、台湾の選手団が閉会式に登場するのか質問を受けた際、「わたしが言いたいのは世界には中国はひとつしかない。台湾は中国の不可分の一部だ」と語った。
同報道官はまた、CNNの記者が五輪のユニホームが新疆ウイグル自治区での強制労働によって作られたかどうか質問すると、強制労働が行われているとされる批判について、「隠れた動機を持つ勢力により作り上げられたうそ」だとの見方を示した。
五輪の求める政治的中立に関する規則に違反したようにみえるこうした発言には、IOCのバッハ会長から珍しく批判の声が上がった。
バッハ氏は「我々はこの記者会見後ただちに北京五輪組織委員会に接触し、組織委員会とIOCはともに、五輪憲章で要求される政治的中立性を保つという明確な約束を改めて表明する」と述べた。
中国政府はこうした好戦的な意見表明を宣伝戦での勝利とみなすかもしれない。しかし、多くの国際社会の視聴者にとっては、組織的な成功やスポーツ上の成果にもかかわらず、五輪がいかに政治的な問題をはらんでいるかを思い出させたに過ぎない。
チャイナ・スポーツ・インサイダーの創業者であるマーク・ドライアー氏は「五輪は一つの独立したイベントとして見れば、非常によく運営され、中国もうまくやった。組織は素晴らしかった」と述べた。
「しかし、また、それはどの視点から見るかによる。そういった幅の狭いレンズだけで人々は見るのだろうか。もし中国全体に目を向けているのであれば、(中国国外からの)言説は、中国が五輪をスポーツウォッシングのために利用しているというものがほとんどだ。これが、国としての中国を見る人々の見方を変えることになるとは思わない」(ドライアー氏)
◇
本稿はCNN北京支局による分析記事です。