(CNN) 米民主党は中間選挙の選挙戦を7日に終える中で、常に恐れていた悪夢のシナリオに直面している。バイデン大統領の困難な政権運営とインフレ抑制失敗という材料を前に、共和党が大喜びで国民の審判を演出するという状況だ。
中絶を認める権利を覆した最高裁の判決や一連の立法上の勝利を活用すれば、政権与党が中間選挙に敗北するとの昔ながらのパターンを回避できる。民主党が抱いていたそんな希望も、今は記憶のかなただ。バイデン氏を取り巻く政治状況は、40年ぶりの生活費の高騰のために暗いものとなっている。本人は来年の迅速な回復に期待をつなぐものの、リセッション(景気後退)の懸念が拡大する中でそれにも暗雲が垂れ込めている。
中間選挙前夜、民主党は連邦議会下院での多数派を失う危機にさらされ、共和党は上院で過半数を獲得する見通しを一段と高めている。これが実現すれば、バイデン氏は苦境に立たされる中で大統領選再選に向けた戦いを開始することになる。一方でトランプ前大統領は、ホワイトハウスへの復帰を目指す自身の大統領出馬表明を、数日中に行うとみられている。
現段階で中間選挙の結果を分析するのは時期尚早だ。すでに4000万人の米国人が投票を済ませているが、現代の選挙につきものの不確かさにより、本当に(共和党の)赤い波が押し寄せるかどうかは誰にも確言できない。民主党は下院で陥落するとしても、依然として上院の多数派を維持する可能性がある。
しかし選挙日前夜の両陣営のコメントや、ニューヨーク州からワシントン州に至る民主党が支持基盤とする地域の情勢からは、共和党優位の構図が明確に浮かび上がる。
国内は政治的に真っ二つに割れているが、現状の道筋に対する不満感のみにおいてはまとまっている。このまま行けば従来の慣行を繰り返し、選挙を利用して政権与党に罰を下す流れとなるだろう。
つまり、今回最も危うい立場にあるのは民主党ということになる。
仮に民主党が大敗を喫するとすれば、批判の矛先はバイデン氏のインフレに関するメッセージ戦略に向けられるだろう。
昨年バージニア州の知事選で敗れた時と同様、民主党は今回の選挙戦を民主主義とトランプ氏の影響力への警告で締めくくった。一方の共和党は、有権者が最も気にかけている問題を争点にしたと確信している。
「つまるところ民主党というのはインフレ否定論者であり、犯罪否定論者であり、教育否定論者だ」。共和党全国委員会(RNC)のロナ・マクダニエル委員長は、6日に出演したCNNの番組でそう述べた。
長く民主党の顧問を務めるヒラリー・ローゼン氏は同番組で、同党が有権者のムードを見誤ったと指摘した。
民主主義巡るバイデン氏の厳しい警告
バイデン氏は米国の政治体制に対する脅威がトランプ氏によってもたらされていると強調したが、首都ワシントン周辺以外の地域においてそうした警告は日々の生計を立てることに比べれば縁遠い問題だった。ペンシルベニア州からアリゾナ州に至るまで、多くの人々はバイデン氏が約束したコロナ禍以前への回帰をなお実感できていない。
民主党の政治的苦境は、CNNの委託を受けた世論調査会社SSRSによる先週の調査にも如実に表れている。投票に行くとみられる有権者の51%余りは、経済が投票先を決める上での重要な争点だと回答した。これに対し中絶を重要視する回答は15%にとどまった。この結果は選挙の情勢がいかに共和党有利に傾いているかを説明する。経済を最大の関心事とした有権者のうち、71%は下院の選挙区で共和党に投票するつもりだとした。
また有権者の75%は、経済がすでにリセッション入りしていると考えている。従ってバイデン氏が驚異的な失業率の低さなど、経済分野での明白な強みを強調しようとしても、聞く耳を持たれない公算が大きい。
バイデン氏はどのように経済を語ったか
バイデン氏がインフレの影響を無視した、もしくはそれが国内にもたらす痛みを理解していないと断じるのは単純に過ぎる。
バイデン政権の国内政策や同氏の長年の政治人生で重視してきたのは、経済のバランスの回復、そして労働者や中間層の保障を手厚くすることだ。同氏の立法上の成功は高齢者の医療コストを引き下げ、多様な形で環境に優しい経済活動を創出しうる。後者は世界が混乱する中、米国人を将来のエネルギー価格の高騰から守る役割を果たす。ただこうした措置の恩恵が表れるのには数年を要する。多くの有権者は現状で痛みを感じており、短期的に有効な物価高騰への対策を大統領から聞かされていない。
共和党の掲げるトランプ政権時代の減税の延長とエネルギーの新規採掘の取り組みも、インフレ危機に十分な効果を発揮する保証はない。しかも分断された政治が2つの対立する経済構想の間で膠着(こうちゃく)状態に陥る公算も大きい。
加えて実際のところ、大統領が自力でインフレ率をすぐに引き下げられる余地はほとんどない。対策を先導するのは連邦準備制度理事会(FRB)だが、FRBが率先して金利を引き上げる戦略をとればリセッションが起こり、バイデン氏の政権運営を一段と窮地に追い込む恐れもある。
インフレとガソリン価格の高騰は世界的な問題でもあり、ウクライナでの戦争や新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によるサプライチェーン(供給網)への影響など、バイデン氏の統制の及ばない要因で悪化してきた。しかし同時にエコノミストらは、複数の法案に関するバイデン氏の判断が賢明だったのかどうかも議論している。これらの法案を通じ、巨額の資金が過熱する経済に投じられてきたからだ。
またホワイトハウスが生活費の高騰を「一時的なもの」と繰り返し過小評価したことは、状況を大いに見誤らせ、バイデン氏の信用を損ねるもう一つの要因ともなった。
皮肉にも、バイデン氏が経済に関して信頼に足るメッセージを打ち出すのに苦慮することで、まさしく本人の警告する民主主義の危機が引き起こされるかもしれない。
新たに多数派を形成すると目される共和党議員は過激なトランプ氏支持者が大半を占める。各委員会の委員長に就くとみられる複数の議員は、早くも連邦議会議事堂襲撃事件におけるトランプ氏の責任回避に向けて全力を尽くす考えを示唆。トランプ氏の行動を対象に犯罪捜査を進める司法省にも狙いを定めるとみられる。
中間選挙の結果次第では、前回の大統領選の結果を否定する人々が軒並み各州の要職に就く可能性もある。2024年の大統領選ではこうした人々が一部の激戦州での選挙運営を担うことになる。共和党が支配的な州では法律により、投票権が一段と制限される恐れもある。
高いインフレ率は常に有害な原動力となって、政治的な過激主義を醸成する。有権者の一部が、扇動政治家や急進主義者に取り込まれる動きにもつながる。彼らの政治信条の基礎は、外部の人間への恨みと非難をたきつけることにある。
民主党が8日夜に惨敗するなら、トランプ氏がその恩恵を受けるだろう。
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本稿はCNNのスティーブン・コリンソン記者の分析記事です。