ナシル君によれば、一番小さかったのは5歳の男児。だれもが例外なく過酷な訓練を受けた。泣くことは許されなかった。「母さんのことを思い出して、心配しているだろうなと泣きたくなった時は、がんばって声を出さずに泣いた。逃げ出して母さんにまた会えた時は、生き返ったような気持ちだった」という。
ナシル君は脱出前、ISISが「首都」と称するシリア北部ラッカの少年兵訓練施設で宣伝ビデオに出演していた。
ビデオでは、教官の両側に無表情な子どもたちが並ぶ。1人の少年は震えているのが分かる。ほかの子どもたちも目を上げることができないまま、「聖戦へ、聖戦へ」と唱える。「彼らはこれから不信心者との戦いの前線へ出ていく」と、教官が宣言する。
クルド自治政府の治安部隊ペシュメルガの司令官によると、北部での戦闘の最前線となっているグウェイルにやって来る子どもたちはすさまじい状況にある。「人間にすら見えないほどやせ細った体で、地獄にいるようだったと訴えるのです」
そんな子どもたちに、銃を向けなければならないこともあるという。ISISの拠点は近くを流れる川の対岸、壊れた橋の向こう側わずか数メートルのところにある。ここへ送り込まれる子どもは洗脳され、自爆ベストを着ているケースが多い。