対ISIS、モスル奪還の決戦迫る イラク軍を現地取材
周囲にあるほかのキャンプもすでにパンク状態だ。モスルの東方、クルド人自治区に設けられたデバガのキャンプは、4月から5倍の規模に膨れ上がった。拡張工事も追いつかない。多くの家族が防水シートの下や仮設シェルター、学校の校舎にひしめき合って待機している。
「紛争や暴力から逃れ、心に傷を負い、脱水や過労に陥った状態でたどり着いた人たちだ。それなのに土地が足りなくて必要なサービスを提供することができない」――支援団体「ノルウェー難民委員会(NRC)」の担当者はそう嘆く。たとえクルド自治政府によって土地が割り当てられても、資金面の問題は解決しない。
7月には緊急資金として2億8400万ドル(約300億円)あまりの拠出が決まった。しかし大量の避難民が発生したり危機が手に負えない規模に達したりする前に、ただちに交付されなければ意味がない。すでに前線に沿った全ての地域が、かろうじて脱出してくる避難民であふれている。
モスルの北方や東方からは、自治政府の治安部隊「ペシュメルガ」がモスルに迫っている。ペシュメルガの検問所の陰にうずくまっているのは、逃げてきたばかりの3人の女性たち。義理の姉妹同士だという。ISISが女性に着用を命じている黒いベール姿で、じっと座っている。その周りを囲む子どもたち。夫たちは2年前、職を求めて家を出たきり帰宅できていない。父親の顔をまだ見たことのない子もいる。
女性たちはISISの支配下にとどまっている親族を心配して顔を隠し、脱出の経緯についても多くを語ろうとしなかった。親類の男性がひとり、ペシュメルガが近付いてきた時を見計らって、みんなで逃げ出せるチャンスをつかんだと説明した。
男性は「脱出させてあげられてよかったと思う一方で、一緒に来られなかった両親のことを思うと胸が張り裂けそうだ。どうやって連れ出せばいいのか分からない」と、肩を落とした。