侵攻前、ロシアは約120個の大隊戦術グループをウクライナ周辺に配置していた。欧州当局者の1人によると、そのうち約4分の1は死傷者の続出や装備品の破壊で「実質的に作戦投入不可能」な状態にあるという。一方、米国防総省当局者は8日、これとはやや異なる推計を示し、現在のロシア軍は2月24日の侵攻開始前に集められた「利用可能とみられる戦力の85%未満」に減っていると述べた。
こうした米国防総省の推計について、ISWは「ロシア軍の現在の戦闘能力を意図せず過大視している」と指摘する。
ISWによると、「キーウ周辺から撤退したロシアの大隊戦術群グループ数十個が持つ戦闘能力は、部隊数や人員の総数から想定される戦力のごく一部にとどまる可能性が高い。ウクライナで戦うロシア部隊は恐ろしいほどの損失を被った」という。
残虐行為の過去を持つ司令官
欧米の当局者によれば、ロシアはウクライナでの軍事作戦を統括する戦域司令官に、南部軍管区司令官を務める将官アレクサンドル・ドゥボルニコフ氏(60)を指名した。
ドゥボルニコフ氏はシリアでのロシアの軍事作戦の初代司令官を務めた人物。プーチン氏は2015年9月、シリアのアサド政権を支援する目的で同国に軍を派遣した。
ドゥボルニコフ氏がシリアで指揮を執った15年9月から16年6月にかけ、ロシア軍機は反体制派支配下のアレッポを包囲するアサド政権や同盟勢力を支援し、人口密集地を爆撃して多数の民間人犠牲者を出した。アレッポは16年12月にシリア軍の手に落ちた。
00~03年には、ドゥボルニコフ氏は長期に及んだ北コーカサス地方での鎮圧作戦に参加した。中でも第2次チェチェン戦争では、チェチェンの中心都市グロズヌイが壊滅状態に追い込まれた。
ロシアはウクライナの一部で同様の手荒い手法を用いており、主要都市のマンションを攻撃したほか、港湾都市マリウポリの大部分を破壊した。
ドゥボルニコフ氏は16年3月、軍功が評価され大統領府から「ロシア連邦英雄」の称号を授与された。