「誰を解放するためにここに来たのか」
イジュームに住むワレリーさんが言うには、街の住人はロシア兵のふるまいに腹を立てているそうだ。
「人がいなくなると、(ロシア兵は)何もかも盗んでいった」とワレリーさん。「まるで豚のようにふるまっていた。自分たちがある家に入ったが、そこでは豚のほうがましだった」
イジュームでの戦闘が始まった3月4日、8発のロケット弾がワレリーさん夫妻の住む家の近くに着弾したという。「恐怖で震えあがった」が幸い2人とも被弾しなかった。そのうちの1発で隣の家は破壊されたが、隣人はけがひとつなく無事だった。
ワレリーさんが言うには、戦争の早い段階で街にやってきたロシア部隊はウラジーミル・プーチン大統領が掲げる侵攻の大義名分、すなわちウクライナの「非ナチ化」が嘘(うそ)だったことにすぐに気づいたという。
「(ロシアの)砲兵が来て、『我々はあなたたちをナチから救った』と言った」とワレリーさん。「だから言ってやった、『1人でもナチを見せてみろ』と」
ワレリーさんは若い兵士にロシア語で話しかけ、かつては親密だったウクライナ人とロシア人の関係を破壊していることに気づかせようとした。とりわけ国境にほど近いこの地域ではそうだった。
「あなたたちが壊した家の男性は(ロシアの)クルスク州出身だったと教えた」とワレリーさん。「ここにいる誰もが(ロシアの)ベルゴロドなどの街に親戚がいる」
ある時にはロシアの偵察部隊がやって来て、「自分たちは誰を解放するためにここに来たのか」と尋ねられたそうだ。
ロシア地上部隊のそうした混乱や裏切りが、この1週間でロシア兵がこの地域から撤退した大きな要因だったと思われる。
だがプーチン大統領にとってもっと危険なのは、ハルキウ州で軍隊の指揮体系が崩れていることだ。上級将校は塹壕から避難し、部下たちも重火器を捨てて逃げ出した。
今後もウクライナ軍はロシア兵を退却させ続けようとするだろう。いつかロシア兵らがハルキウでの出来事を手土産にモスクワに戻り、上層部に償いを求めることを期待しながら。