前線の怒り、国内の不安――問題に直面するロシアの動員
国内での抗議
兵士たちが故郷に苦境を伝えると、そうした不満の声は妻や母親によりSNSや地方当局への直訴を通じて増幅される。
ステパネンコ氏は「家族から寄せられる不満で最も多いのは、愛する人の居場所や給料の遅延、物資不足に関する国防省の情報が十分でないというものだ」と指摘する。
先日には、ロシア国外に逃れて活動するメディア「レインTV」の動画が浮上。ボロネジ州ボグチャルにある軍の基地に要員の親戚が集まり、10月上旬から夫や息子の消息を聞いていないと口々に訴える様子が映っている。
今月14日にSNSに投稿された別の動画では、ボロネジ州在住の女性グループが、夫や息子は指揮官を伴わず前線に投入されていて、水も必要な服も武器もないと訴えた。
女性の1人は息子から、自分の大隊で生き残った兵士はごくわずかだと聞かされたといい、「彼らは遺体の下から文字通り這(は)って抜け出した」と語った。
女性らはボロネジ州の知事に対し、動員された身内は「訓練を受けておらず、射撃場に1回連れて行かれただけ。戦闘経験はまったくない」と訴えている。
回答が帰ってこないとの不満も目立ち、女性の1人は「軍事委員会から数分の距離にいるのに、職員は誰一人連絡をよこさず、私たちを完全に無視している」と語った。
ユーチューブに投稿された動画では、ロシアのスベルドロフスク州在住とされる女性十数人が、ルハンスク州スバトベ付近に身を隠しているとの情報がある第55旅団の新兵への支援を訴えた。新兵らは軍事法廷にかけると脅されているが、そもそも前線に投入されるべきではなかったというのが家族の主張だ。
女性の1人は息子から電話で「全く指示がない状態で放置されていて、弾薬もない。空腹と寒さでみな体調を崩している」と伝えられたという。
41歳の夫が動員されたという別の女性は「彼らは専門的な訓練を全く受けずに戦地に赴いた」と語る。
「給料は支払われていない。軍のどこかの部隊に配属されているわけではなく、どこを探せばいいのか、誰に聞けばいいのか分からない」
まれにではあるが、地元当局が対応することもある。ウラジーミル州の軍事委員は、身内が「適切な装備も訓練もないままスバトベ付近の前線に送られた」と訴える親族に次のような回答を寄せた。
「我々の部隊には兵器や防弾チョッキ、衣服、水、温かい食事が支給されている。ウラジーミル州からの支援物資は定期的に届けられ、指揮官との連絡も維持されている」
ただ、大半のケースでは家族が回答を受け取ることはない。
ジャーナリストのアナスタシア・カシェバロワ氏は、戦闘員の親族から数百通のメッセージを受け取ったと投稿し、「兵士らは連絡なしで放置されている。必要な武器も医薬品もなく、当然ながら火砲もない。左右や後方に誰がいるのか全く分からない状況だ」と明らかにした。