「一夜で世界変わった」、ゼロコロナ見直しがもたらす喜びと不安 中国
(CNN) 中国全土で作業員らが、国の「ゼロコロナ」政策にまつわる事物を取り除いている。地下鉄駅の壁からは健康コードのスキャンに関するポスターがはがされ、一部の検査会場は閉鎖された。いずれも政府が新型コロナのパンデミック(世界的大流行)への対策を全面的に見直すと表明したことを受けての措置だ。
ただ多くの住民が安堵(あんど)の思いと幸福感を抱いて明白な対策の緩和を歓迎する一方、その影響を不安視する人々もいる。彼らは新たな規制がどのように展開していくのかについて疑問を投げかけてもいる。
「一夜にして世界が変わった。本当に素晴らしいことだ」。北京のハイテク企業でマネジャーを務めるエコー・ディンさん(30)はそう話す。「普通の生活に戻っていると感じる。これは私にとって重要なことだ。普通の生活に戻れないとしたら、頭がおかしくなるかもしれないから」
しかしディンさんは国内の多くの人々と同様、急速な変化への不安も表明した。世界の大部分の国々がパンデミックの規制を緩和した後も、中国はロックダウン(都市封鎖)を継続し、コロナ患者を隔離施設に送り続けた。単に陽性者が検出された場所を訪れた人たちも規制の対象になった。
7日、保健当局はゼロコロナ政策の大幅な見直しを発表。10の項目に基づき一部の規制は維持するものの、スマートフォン上のQRコードで個人の健康状態を追跡するシステムは公共の場所のほとんどでこれを廃止した。大規模な検査も徐々に実施を減らし、陽性者の多くについては自宅での隔離を可能にした。「高リスク」とみなされた地域のロックダウンにも制限を課した。
「一体どうしたら物事をこんなに早く変えられるのか?」と、ディンさんは問いかける。「自分たちが馬鹿みたいに思える。すべて彼ら次第だ。彼らがいいと言えば、それでいいことになる。今はそんな気分で、とても現実とは思えないが、自分にはどうしようもない。決まったことに従うしかない」
フリーランスとして上海で働くデービッド・ワンさん(33)は、変化を歓迎するとしながらも、同時に不信感も覚えていると明かす。上海は今年初めに実施された2カ月以上に及ぶロックダウンで大混乱に陥った。
「もちろん新しい変化については非常に喜んでいる。(けれども)友人のほとんどに心的外傷後ストレス障害(PTSD)の典型的な症状が出ている。状況が変わると言ったところで、彼らにはそれが信じられない」(ワンさん)
警戒と懸念
北京の保健当局トップは7日、規制の変更は科学的証拠に基づくものだと説明。比較的毒性の弱いオミクロン株の蔓延(まんえん)やワクチン接種率、国としてのウイルス対策の経験などに言及した。
しかし中国全土で起きた前例のない抗議行動の直後に発表された政策変更は、急速かつ真逆の方針転換を意味する。これまで政府は長い間、全ての感染を撲滅することに躍起になっていた。
政府も国営メディアも、ウイルスの危険性と影響が長期にわたり続く可能性を強調。抑圧的な政策を維持することを正当化してきた。
ここへ来て、弱毒化したオミクロン株の性質とリスクの低下を取り上げる記事が大量に出回ってはいるものの、他の国々が行っているような政策変更に関する周知キャンペーンのような取り組みには程遠く、多くの人々は専門家が想定する感染数の増加への準備ができていないのが実情だ。
8日午前、中国大手SNSウェイボー(微博)では、オミクロン株に感染した場合の対処法に関する話題がトレンド上位を占めた。一方で解熱剤などのパニック買いの報道も相次いだ。
「人々は感染した場合にどんな種類の薬を服用して何をすればいいのか、感染が広がるまで知らされてこなかった。実際には、もっとずっと前から始めておくべきことだった」。北京で弁護士として働くサム・ワンさん(26)はそう話し、今回の政策発表は「突然かつ恣意(しい)的」に感じると付け加えた。
ウイルスとの共存に対する不安を隠さない人たちもいる。北京の英語教師、オーロラ・ハオさん(27)は、最初の感染で体調を崩すことはなかったとしながらも、2度目や3度目の感染で体にどんな影響が現れるのかについて確かなことは言えないと述べた。
上海のワンさんによれば、中国国内の議論は二極化している。自身の友人たちの間では、大都市圏に住む人がかねて規制緩和を心待ちにしていたのに対し、より小さな街に住む人はコロナ感染の危険性について政府の従来の言説を信じる傾向が強い。
そうした中、ワンさんの母親は効果の高いN95マスクを購入。「核の冬」への準備さながらに、起こりうる最初の感染の波をやり過ごそうとしているという。
しばらくは様子見
政策変更は多くの人々が安堵の気持ちと共に受け入れたものの、今後の展開には不透明感も漂っている。
地方当局が対応に動く中、既に新たな指針をどう運用するかについて一部で食い違いが生じてもいる。
北京市当局は7日、レストランでの食事や特定の娯楽施設への入場には依然として健康コードによる陰性証明が必要だと発表した。この運用は全国的な指針と矛盾する。
北京に暮らす前出のハオさんは、ほぼ自由に外出できるようになったことを理解しつつ、あえて自宅にとどまり、「様子を見る」考えだ。
「私たちはまだ様子を見ている。封鎖が解かれれば誰もが一斉に外へ飛び出していくわけではない」(ハオさん)