「とにかく生き残ること」、ワグネル元兵士が振り返るウクライナ東部戦線の恐怖
そして2人は今、プリゴジン氏のセールストークにだまされたと悔しがっている。
「危険については一言もなかった」と1人は言った。「言われたのは、犯罪歴を全部帳消しにするということ。6カ月従軍すれば有罪判決の記録が抹消され、前金は24万ルーブル(約3300ドル、およそ44万円)で、第二線の防衛維持が任務だと言われた」
2人は戦争の本質についてもだまされたと感じている。
「ポーランド人とかドイツ人とか、様々な国の傭兵(ようへい)と戦うものだと思っていた。ウクライナ軍の兵士が残っているなど思いもしなかった。とっくに国外に逃げたと思っていた」と1人は語った。
「それではっきり分かった。彼らが嘘(うそ)をまき散らし、自分たちをウクライナとの戦いに送り込んだのだと。まさかAFU(ウクライナ軍)が国や愛する人を守るために戦っているなど、誰も思っていなかった。現地に行って初めてそれを知った」(元ワグネル兵士)
捕虜になって、むしろほっとしたと2人は言った。
そのうち1人は「ウクライナの迫撃砲2基と狙撃兵」の挟み撃ちに遭い、部隊で生き延びたのは自分と負傷した同胞だけだったという。
「持ち場で穴を掘って隠れろと指揮官から命じられたので、穴を掘りながら撤退命令を待っていた。10人の部隊が送られてきて、10人とも狙撃兵にやられた」と、その元兵士は振り返った。
「すると指揮官から無線で指示がきた。とにかく自力でそこから逃げろ、と」
その時だった。複数のウクライナ兵が現れ、こちらの足元に1発発砲し、「両手を上げろ」と言った。「それで終わりだ」と元兵士は語った。
また同じ決断をするかと尋ねると、元兵士は一瞬間を置いた。
「選択を誤ったと思う……自分は軍事作戦に関わったことも、ましてやAFUと戦ったこともない。彼らは自分たちの領土をあきらめようとしない。自分たちは嘘の口実で駆り出された。今は戦争状態だが、正当な大義ではないと思う」(元ワグネル兵士)
もう1人も同じ意見だった。「やる価値があったとは思えない。今は人生をやり直せたらと思っている」
その兵士は捕虜になった後、なんとか家族と連絡を取った。
「連絡するまで、家族は自分が死んだものだと思っていた。泣きながら、自分が生きていることに驚いていた」
2人ともロシアへの帰国を望んでいるという。
そのうち1人は、「ロシアがどうなろうと構わないが、とにかく家に帰りたい」と語った。