ANALYSIS

ロシアへの逆襲を準備するウクライナ、時機の見極めが鍵を握る

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無人機攻撃を警戒し、戦車を直す 最前線の塹壕にいるウクライナ軍兵士

(CNN) 嵐をやり過ごし、敵を消耗させ、その後反撃する。

それがウクライナ軍にとっての合言葉となってから数カ月が経つ。米国と北大西洋条約機構(NATO)の高官も冬以降、これに同調する。

理念としては分かるが、果たして実行できるのか? できるとしたらどこで、いつ、どのような手段で行われるのか? それはウクライナ軍自身にとってさえ、まだ判然としないのかもしれない。1000キロに及ぶ前線を調査し、ロシア側の脆弱(ぜいじゃく)性を探る同軍は昨年9月、北東部のハルキウ州で予想外の攻勢を突然仕掛けている。

しかし彼らには、これから紛争の重要な局面が訪れることが分かっている。ウクライナ国防省の諜報(ちょうほう)部門トップ、キリロ・ブダノフ少将は先月のインタビューで、ロシアとウクライナが今春、決定的な戦闘を戦うだろうと発言。この戦闘が戦争終結前の最後の戦いになるとの見解を示した。

上記の発言から、ウクライナ軍が時間をかけて戦力を最大化している可能性がうかがえる。予想はするだけ無駄というものだ。向こう数週間は、軍の意向についてのはったりや誤情報が大量に流れるだろう。それでも準備は確実に進行している。

ウクライナが反転攻勢をかける上で必須となる前提条件の中には、訓練の完了と新たな部隊の統合が含まれる。ロシア軍後方部隊を損耗させ、強じんな兵站(へいたん)とリアルタイムの諜報を確立することも不可欠だ。

バフムート北の前線に沿って進む戦車=3月17日撮影/ Ignacio Marin/Anadolu Agency/Getty Images
バフムート北の前線に沿って進む戦車=3月17日撮影/ Ignacio Marin/Anadolu Agency/Getty Images

オーストラリア陸軍の元将校で現在はウクライナにいるミック・ライアン氏は、「諜報により、ロシア軍の守備的な配備のどこに弱点がありそうかが分かる。司令部や兵站、予備の部隊がどこに位置しているかといった事柄も知ることができる」と指摘した。

同氏がCNNの取材で明らかにしたところによると、ウクライナは現在複数の新たな部隊を編成している。それぞれの部隊は数千人の兵士で構成。装備には西側の戦車、歩兵戦闘車などの他、工兵用の機材も多数含まれる。

これらの部隊の準備は、間もなく整う可能性がある。

米シンクタンク「戦争研究所(ISW)」のアナリスト、カテリーナ・ステパネンコ氏によれば、ウクライナの情報筋は6~9の新たな旅団を編成し、反転攻勢に備えていることを既に明らかにしているという。

ライアン氏はそうした大胆な攻撃には大量の燃料や弾薬、食料、医薬品、その他の装備が必要になると指摘。兵站網が極めて重大になるとした。

どこで、いつ行うか?

米国とウクライナの上級将校は先月、戦闘の「机上」シミュレーションを実施した。米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長によると、ウクライナ側は地図上の事物を動かし、最適な行動方針を確定。それがもたらす利点と関連するリスクから生じる欠点とを見極めているという。

周到に隠されている可能性もあるが、反攻の一つの手掛かりは兵站の拠点や後方の基地、弾薬の保管所などをたたく作戦だろう。ロシア軍の前線から深い位置にあるこれらの標的には、高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」など西側の長距離兵器と、複数の破壊工作の両方を用いる。そのような攻撃は、既に南部のザポリージャ州やクリミア半島で増加している。

「無理なく予想できるのは、おそらく異なる規模の攻撃行動を少なくとも2地点(場合によってはもっと)、東部と南部で展開するというものだ」と、ライアン氏は語る。これにはロシア軍を混乱させ、主要な襲撃がどこで起きているのか判別不能にする意図があるとみられる。

見返りが大きいのは南部の方だ。うまくいけばロシアが占領したクリミア半島へとつながる陸の回廊を寸断し、ウクライナ国内で最良の農業地帯の一部を取り戻せるかもしれない。マリウポリを別にすれば、南部の大半は東部の都市ほど破壊された状態にはない。

南部への攻撃の成功により、ヘルソン州の各地をまだ押さえているロシア軍の守備隊も持ちこたえられなくなるだろう。同時にザポリージャ原発奪還への道が開ける可能性もある。クリミア半島に真水を供給する運河も取り戻せるかもしれない。

ただステパネンコ氏も同意するように、一つの地域のみに集中すれば作戦は失敗に終わるだろう。東部と南部での攻勢が相互に支え合う中で、ロシア軍はさらなる兵站及び配置の難題に直面することとなる。

要衝バフムート周辺での反撃は入念に準備した部隊によるもので、攻撃行動の始まりの合図となった可能性がある。先週、ウクライナ軍のシルスキー陸軍司令官(上級大将)は、バフムートの周辺地域で「我が軍の任務は可能な限り多くの敵を撃滅し、攻勢をかけるための状況を作り出すことにある」と述べていた。

新たな展開は?

ウクライナには西側からの武器が大量に届き始め、地上部隊の戦力の増強をもたらしている。同軍は主力戦車「レオパルト2」と「チャレンジャー」の操縦訓練のため、戦車兵をドイツと英国にそれぞれ派遣している。

ミサイル防衛も着実に改善しており、地対空ミサイル「パトリオット」の配備により一段の進展が見込めるだろう。パトリオットの操作を訓練したウクライナ軍兵士の第1陣は、現在欧州に戻っている。

しかし今後は部隊の統合が極めて重要になるはずだ。ISWのステパネンコ氏は「ウクライナ軍に必要なのは、反転攻勢に先駆け、諸兵科連合の戦術に向けた能力を増強することだ。これには同軍の様々な旅団と統合火力との間で高度な連携を確立し、作戦を支えることが求められる」と分析した。

3月、ドイツの訓練場で戦車「レオパルト2」の戦略上の動きを確認する兵士ら/Bundeswehr/Reuters
3月、ドイツの訓練場で戦車「レオパルト2」の戦略上の動きを確認する兵士ら/Bundeswehr/Reuters

そのような戦い方はウクライナ軍の従来の戦術にはなく、一朝一夕で身につくものでもない。昨年9月のハルキウ州ではロシア軍の欠陥に乗じて圧倒的な勝利を収めたものの、ヘルソンの奪還には長い時間がかかり、人的にも物質的にも格段に大きな損失を被った。

過去数か月間でウクライナ軍が受け取った装備は、あらゆる攻撃行動にとって不可欠なものだ。具体的には破壊用弾薬、地雷除去装置、自走式架橋装備、耐地雷伏撃防護車両(MRAP)がそれに該当する。

加えて4000人以上のウクライナ軍兵士が諸兵科連合の訓練をドイツで完了した。この中には米国が供与したブラッドレー歩兵戦闘車や装甲車ストライカーを装備する2旅団が含まれる。ドイツではこの他、ウクライナ兵士1200人から成る自動車化歩兵大隊の2隊も現在訓練を受けている。

ハルキウ州北東部の前線に向かうウクライナ軍の戦車=22年9月撮影/Metin Aktas/Anadolu Agency/Getty Images
ハルキウ州北東部の前線に向かうウクライナ軍の戦車=22年9月撮影/Metin Aktas/Anadolu Agency/Getty Images

西側の戦車は「槍(やり)の穂先」として機能するとみられるが、問題は果たして十分な数量が到着し、決定的な違いを生み出せるかどうかだ。オープンソースの情報が示唆するところによれば、現在ウクライナにある西側の主力戦車の数は100両に満たないという。

ロシアの反応

ロシアも当然ながら、ウクライナが新たな攻勢を計画していることは敏感に察知している。直近の数カ月を費やし、数多くの防御の層を築き上げてきた。とりわけ南部においてはそうだ。

ライアン氏はさらに、ロシアが反撃のための機動部隊を準備する公算が大きいとみる。情報収集と長距離兵器によって、こうした部隊に打撃を与えることがウクライナ軍の計画にとって重要な要素になる。

軍事史家のスティーブン・ビドル氏は、「浅い前方の防御なら、高度に組織化された諸兵科連合の攻撃で切り裂くこともできる。しかし深い位置を取り、予備の部隊が相当数後方に控えているのなら、それは依然として攻撃側にとってより困難な問題をもたらす」と記す。

しかしビドル氏は以下の点も指摘する。つまり現実の戦争の結果を予測する上で最高の判断材料となるのは技量のバランスと、双方の動機だというのだ。これはウクライナにとって良い兆候かもしれない。

ウクライナ軍はこれまで自分たちの機敏さや順応性、革新性を証明してきた。大半の部隊は、兵力で勝る相手と対峙(たいじ)しても士気の高さを見せつけている。過去1年間、西側の軍隊は紛争のほぼすべての側面について訓練を施した。それは戦車戦から兵站、指揮系統まで多岐にわたる。

対照的にロシアの昨秋の動員は、戦場での趨勢(すうせい)を大きく変えるには至っていない。加えて、トップダウン方式が際立つ組織にあって反対意見や指揮系統の不手際が報じられる状況からは、ロシアが戦力の規模に見合う戦果を挙げていない可能性のあることがうかがえる。

ウクライナの反転攻勢が成功するには、単に時と配置でロシアの意表を突くだけでなく、作戦を展開する速度を上げ、ロシアが反応する能力を圧倒することが求められると、ライアン氏は指摘する。

敵の欠陥に乗じハルキウ州で圧勝したウクライナ軍だが、ヘルソン奪還には時間を要した/Gleb Garanich/Reuters
敵の欠陥に乗じハルキウ州で圧勝したウクライナ軍だが、ヘルソン奪還には時間を要した/Gleb Garanich/Reuters

早い段階での成功は、勢いを生む。ライアン氏が付け加えたところによれば、ウクライナ軍はロシア軍の戦術的な防衛線を1回突破すればいい。そうすれば後に続く部隊が一気になだれ込む。これを受けロシアは、大掛かりな配置の転換と部隊の撤退を余儀なくされるかもしれない。

米国のオースティン国防長官も2月、ウクライナが望むのは戦闘の最初から流れをつかみ、その後も自軍に有利となる戦況を作り上げることだと述べていた。

高額な兵器を供与され、数千人の兵士が訓練を受けている以上、ウクライナ軍は結果を出す必要があるのを理解している。それによって、味方の国々からの信頼と支持をつなぎ止めなくてはならない。来年になれば米国は大統領選モードに突入し、ウクライナへの注目は薄れる公算が大きい。ロシア政府も、紛争から手を引こうとする中でその点は心得ている。

ウクライナ軍としては今後あらゆる手段を試み、念入りに予行演習を重ねたいところだ。そうして臨む戦いは、今回の戦争で極めて重要な局面となる可能性が高い。

本稿はCNNのティム・リスター記者による分析記事です。

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