多くを困惑させる南アフリカの対ロ姿勢、答えは砂漠の鉱山か
「危険な綱渡り」
だが、ひいき目に見てもANCと政府の境界線があいまいな国では、こうした癒着が南アフリカの対ロ政策に及ぼしうる影響を多くの人々が懸念している。
「ロシアから南アフリカに入ってきた外貨が、様々な政治資金として流用されているのではないか。そうした懸念の高まりは、かつてないほど実感している」。汚職撲滅を訴える非営利団体の代表格「コラプションウォッチ」で、エグゼクティブディレクターを務めるカラム・シン氏はこう語る。
「最終的に、特定の政策で南アフリカがどういう立場をとるのかに影響を及ぼしかねないだろう」(シン氏)
CNNは数週間にわたってたびたびANCとの取材を試みたが、ANCはこれに応じず、党に向けられた疑惑に対する声明も出していない。
だが野党上層部やロシアを警戒する人々は、チャンセラーハウスとANC、ベクセリベルク氏とUMKのつながりと金の流れが気がかりでならない。
「南アフリカは危険な綱渡りをしている。実際のところ、政治家が民衆のニーズよりも政党、つまりANCを優先させるケースもしばしばだ。でなければ、ここまでリスクが高く、あまりにも多くのことが危機状態にある中で、ロシアとこれほど緊密に関わるのは理屈に合わない」。こう語るのは、南アフリカ外交研究所でロシアとアフリカ問題を担当するアナリストのスティーブン・グルツ氏だ。
グルツ氏いわく、米国は長らく南アフリカを慎重に扱い、重要な関係を危険にさらすまいと配慮してきた。
だがこの数カ月間は違った。ルーベン・ブリゲティ2世駐南アフリカ米国大使が、南アフリカ政府とANCの対ロ姿勢を公の場で厳しく批判したのだ。
大使は地元メディアとの記者会見に出席し、南アフリカ政府が昨年12月、制裁対象となっているロシアの貨物船でロシアに武器を輸送していたことが機密情報で明らかになったと主張した。
当局者らは貨物船には何も積まれていなかったと容疑を否認しているが、現在南アフリカ政府が非公開で調査を進めている。
ブリゲティ大使はANCの執拗(しつよう)な米国非難や、ロシアのウクライナ侵攻に対する姿勢にも異議を唱えた。
「これは一国を統治する政党の政治志向の問題だ。幹部を南アフリカ政府の要職に就ける責任を有する、政党の方針を問う問題だ」(ブリゲッティ大使)
チャンセラーハウスのマネージングディレクターのモコエナ氏は、ANCの政治方針はANCが決めることで、同社は口出ししていないとCNNに述べ、利害相反は一切ないと否定した。また同社からANCに対する献金は健全で、条件は一切ないとも付け加えた。
一方、先月末サンクトペテルブルクでの首脳会談にラマポーザ大統領とアフリカ諸国首脳が出席したことで、アフリカ大陸におけるロシアの影響力と西側諸国によるプーチン氏孤立化の失敗が浮き彫りになった。
南アフリカ政府は「非同盟」方針に変わりはないとし、国にとっても、この先期待されるロシア・ウクライナ間の平和交渉にとっても最善だとの主張を貫いている。
この発言は西側大国から批判を買っているが、今月ヨハネスブルクで予定されている重要な新興国(BRICS)サミットにプーチン大統領が対面ではなくオンラインで出席することが先日発表されたことで、南アフリカも窮地を脱することができたようだ。
仮にプーチン大統領が南アフリカ行きを決断していたら、国際刑事裁判所(ICC)はすでに戦争犯罪容疑でプーチン氏の逮捕状を出しているため、南アフリカはICCへの責任をどう果たすのか問われていただろう。