(CNN) オランダでの衝撃の選挙結果に、欧州中が不意を突かれた。傍観者の多くにとって、次に何が起こるのか正確なところは分からないのが実情だ。
極右のポピュリスト政治家、へルト・ウィルダース氏と同氏の率いる自由党(PVV)は、現在政権の樹立を目指している。同党は22日の国政選挙で予想外の大勝を収めた。
「正直なところ、これはオランダ人にとってのトランプ・モーメントのように感じる。(前米大統領のドナルド・)トランプ氏が当選した後に起きたこと。政界における気運と変化。今回も同じ状況になる可能性がある」。伊ボッコーニ大学で政治学を専攻するキャサリン・デフリース教授は、CNNの取材に答えてそう指摘した。
ウィルダース氏とPVVは最多の議席(予測によれば定数150議席中37議席)を獲得したとみられる。しかし、彼らが連立政権を組むのに十分な支持を得られるかどうかは不透明だ。
選挙結果は右派政党にとっての全面勝利の様相を呈しているものの、ウィルダース氏が掲げる反イスラム、反移民、反欧州連合(EU)、そしてウクライナ懐疑論に根差した公約は、中道右派の自由民主党(VVD)から広く常軌を逸した内容と認識されている。VVDは政界引退を表明しているルッテ首相が所属する党。
ウィルダース氏が首相の座に就く最も明確な道筋は、VVDと連立を組むことだ。開票率98%時点での集計に基づく暫定結果によれば、VVDの獲得議席数は24議席で3位。中道右派の新社会契約党(NSC)は20議席を押さえた。労働党とグリーンレフトによる左派連合は25議席で2位につけている。
今後成立し得る連立政権が実際にはどのようなものになるのかも、同様に不透明だ。最も多くの議席を取って圧勝した政党が政権から締め出される事態は極めて異例だろう。ことによるとウィルダース氏が就く仕事は、政権のトップを担うものにならない可能性もあるが、その場合は恐らく何らかの重大な妥協が同氏の施政方針に対してなされることを意味するだろう。
そうした直近の懸念以外にも、複数の疑問が存在する。果たしてウィルダース氏の勝利はオランダの政治、そしてより広範な欧州の政治にとって何を意味するのか。
今月6日、伊ローマで移民に関する協定に署名したイタリアのメローニ首相(右)とアルバニアのエディ・ラマ首相/Tiziana Fabi/AFP/Getty Images
欧州におけるポピュリズム(大衆迎合主義)の台頭は、正確には今に始まった話ではない。イタリアは現在、第2次世界大戦終結以降最も右派寄りの政権に率いられている。スロバキアでは9月の選挙で、左派のポピュリスト政治家、ロベルト・フィツォ氏が首相に返り咲いた。
EUは概ね、こうした種類の指導者の抑え込みを得意としている。場合によっては彼らの影響を緩和するために、財政的な見返りをちらつかせることもある。または国境管理など、国内の支持者に向けた政策の支援を行う。
しかしながら、彼らをテントの中に入れておけば問題が生じることもある。
EUにおける意思決定は、全会一致を原則とする。つまりどの加盟国にも拒否権が認められており、一部の国がごく国内的な問題を巡って残りの国々を否応なく打ち負かすことも可能になる。場合によっては、1兆ユーロ(約163兆円)以上に上るEU全体の予算成立を阻止できる。
非協力的な国が複数あれば、当該国同士が結託する可能性も浮上する。これは欧州理事会と欧州議会の両方で起こり得る。欧州理事会は加盟各国の首脳と閣僚で構成される。欧州議会では異なる加盟国の右派政党と左派政党が協力関係を築いている。
とりわけ右派はこの連携にすこぶる長じており、ブリュッセルにあるEU本部での影響力を近年著しく拡大してきた。ただこうした状況は、ウィルダース氏によるEU離脱の脅しが実のところブリュッセルにとって最大の頭痛の種ではない理由の一端になっている。
EU懐疑論者は最近、概してEUを離脱したがってはおらず、むしろその運営を望んでいる。EU内への残留がもたらす経済的な恩恵を好ましいものと考えているからだ。また引き続きEU内での政治力が高まれば、世界全体を舞台としても彼らは極めて有利な状況に立てることになる。
一方でEU懐疑論を唱える別の指導者らは、既にウィルダース氏を祝福。迅速かつ明白な喜びを伴った反応を示した。
「変化の風がここに吹いている! ヘルト・ウィルダース氏のオランダでの選挙戦勝利を祝す」。ハンガリーのオルバン首相は22日遅くにそう述べた。
フランスの極右政党を率いるマリーヌ・ルペン党首は、「国のたいまつの火が消えるのを、黙って見ているのをよしとしなかった国民がいるということだ。これこそ変化への希望が依然として欧州で生きている理由に他ならない」と語った。
22日の総選挙で自身の票を投じるウィルダース氏(中央)/Carl Court/Getty Images
たとえウィルダース氏が自らの公約のより過激な部分を実行に移せず、欧州側から一段と広範な封じ込めを受けるとしても、同氏の成功が他の欧州諸国の政治に何をもたらすのかといった懸念は残っている。ポピュリストの勝利は、往々にして他国をさらなる右傾化へと引き込みがちだ。
この最も明白な事例はフランスに見られる。マクロン大統領は反イスラム的な言説を模倣して、ルペン氏に出し抜かれまいとしている。英国でも中道右派の保守党が、政権に返り咲いて以降の13年間でそれまでとはほぼ似ても似つかない政党になった。ブレグジット(EUからの離脱)の影響も大きかった。
その他の懸念としては、ウィルダース氏が何らかの形で政権から締め出され、自らを受難者と決め込む事態が挙げられる。この場合、同氏が政権の座に就いてからの寝返りに走ることはなくなる。イタリアのメローニ首相はこれまでのところ、それほど過激な右派の扇動者にはなっていない。昨年の就任時は一部でそれを不安視する声が上がっていたが、その後はある程度EUによって抑え込まれた状況にある。このため、本人を除く右派からは裏切り者と見なされている。
役職に就かない人物が最も強大な影響力を持つということが、政界では往々にして起こる。ナイジェル・ファラージ氏は、英国の保守派を右派に引きずり込み、同国のEU離脱でも大役を担った人物だが、以降は政権はおろか議会にも姿を見せていない。それでもなお、本人は反移民を巡る投票の実施を示唆している。
今年開かれた保守党の年次会議で、ファラージ氏は多くの代表者から英雄のように迎えられた。党にとって最大の脅威であることはほぼ間違いないにもかかわらず。
今後オランダでの連立協議で何が起きるのか、実際の次期政権がどのような姿になるのかを予測するのは至難の業だ。しかし今回の結果は多くの欧州人にとって真に衝撃であり、我々はまさしく新たな領域へと足を踏み入れている。
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本稿はCNNのルーク・マクギー記者による分析記事です。