米利上げが米国民に与える影響、5つのポイント
ニューヨーク(CNN Business) 米連邦準備制度理事会(FRB)が物価上昇(インフレ)対策で政策金利を上げ、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)がもたらした自由な資金の時代が終わりを告げた。
FRBが4日に発表した0.5%の利上げは過去22年で最大の上げ幅となった。3月には2018年後半以来となる利上げ(0.25%)をしたばかりだった。
FRBのゼロ金利政策の転換が示しているのは、米国の労働市場の健全性に対する自信と、生活費上昇に対する懸念だ。
3月には40年で最も高いインフレ率を記録し、FRBは今後数カ月で複数回の利上げに迫られそうな状況だ。
米国民はこうした政策の変更を借り入れコストの増大という形で実感するだろう。住宅や車のローンを異常な低金利で契約できる状況はもうなくなる。一方、銀行預金からは多少のもうけがでるようになるだろう。
監査法人RSM USの主席エコノミスト、ジョー・ブルスエラス氏は「お金はもはや無料ではない」と述べた。
パンデミックの発生時、FRBは家計や企業の支出を促すために借り入れコストをほぼ無料にした。さらにコロナで傷んだ経済を後押しするため、「量的緩和」と呼ばれるプログラムを実施して市場に数兆ドルを投入。20年3月の信用市場の混乱時には、緊急信用供与を用いて危機を回避した。
こうしたFRBの対策は功を奏した。コロナによる金融危機は起きず、ワクチンや議会による巨額の財政出動も景気の早期回復に道を開いた。だが、こうした緊急対応とその終了時期の遅れが、今日の過熱した経済の原因となっている。
50年ぶりの低い失業率となり高インフレとなっている今、米経済はFRBのこうした支援をもはや必要としていない。
借り入れコストが増大
FRBが利上げをするときはいつも、借り入れコストが増大する。住宅ローンから持ち家担保ローン、クレジットカード、学生ローン、自動車ローン、企業融資まであらゆる利率が上がる。
人々が一番実感するのは住宅ローンだろう。利上げが予想されていたことから、既に利率は上昇を始めている。30年固定金利の住宅ローンは4月28日の週で平均5.1%と、昨年11月の3%足らずの水準から大幅に上がっている。
コロナ流行中に住宅価格は高騰を続けたが、住宅ローン金利の上昇によりこうした住宅の購入が難しくなる。需要が弱まれば住宅価格が下落する可能性がある。
全米不動産協会によると、3月の中古住宅価格の中央値は37万5300ドル(現在の為替レートで約4900万円)と前年比15%増となっている。
どこまで金利は上がるのか
投資家はFRBの年末までの政策金利予想で、上限を少なくとも3%と予想している。
過去を振り返ると、FRBは前回の利上げの局面で18年後半に2.37%まで上げた。07~09年の世界金融危機より前には5.25%まで上げている。
1980年代まで戻れば、ボルカー議長時代に超インフレに対抗するためフェデラルファンド(FF)の実行金利が22%超に達した。現在借り入れコストがこの水準にまで上がることはなく、政策金利のこれほどの上昇はほぼ予想されていない。
それでも、今後数カ月の借り入れコストの増大を左右するのは、FRBの利上げのペースとなる。
預金者には朗報
ゼロ金利政策は預金者に不利な状況をもたらしていた。通常の預金や譲渡性預金(CD)、マネー・マーケット・アカウント(MMA)のお金はコロナ禍でほぼ何も利益を生み出さなかった(その点では過去14年間の多くの時期もそうだったが)。インフレを考えれば、預金者は実質的にお金を失っていたともいえる。
今回のFRBの利上げで預金利率も上昇し、再び利息も得られるようになるだろう。
ただそれには時間がかかり、大手行の従来の口座では特にその傾向が強いだろう。また複数回の利上げがあっても、預金利率は非常に低い状態で、インフレや株式市場での予想収益率を下回る可能性はある。
市場は調整に迫られる
FRBからの自由な資金は株式市場には朗報だった。ゼロ金利政策が国債金利を押し下げ、投資家は株式などよりリスクの高い資産に投資せざるを得なかった。
利上げは、緩いお金に依存とまでは言わなくても、慣れていた株式市場にとって試練となりうる。株価は既に、FRBがインフレ対策に動く懸念から大きく変動していた。
今後の株価はFRBの利上げのペースや、利上げ後の経済や企業利潤の状況に大きく左右されることになるだろう。
少なくとも、株式市場は国債市場からの競争により直面することになるだろう。
インフレは収まるのか
FRBの利上げの目的は、労働市場の回復に影響を与えずにインフレを抑えることだ。
消費者物価は3月、前年比で8.5%上昇し、81年12月以来のペースとなった。FRBが目標とするインフレ率2%からは程遠く、この数カ月悪化を続けている。
経済学者からは、ロシアのウクライナ侵攻以降商品価格が上昇し、今後インフレがさらに悪化するとの予想が出ている。
食料品からエネルギー、金属に至るまで価格が上昇している。ただ、石油価格は中国のコロナ関連のロックダウン(都市封鎖)から世界市場での需要に懸念が出て、最近の高値からは下がった状況にある。
生活費の上昇は数百万人の米国民の家計の悩みの種となり、10年ぶりの冷え込みとなった消費者心理に大きく影響している。バイデン大統領への支持率低下につながったことは言うまでもない。
それでも、利上げがインフレ抑制の効果を発揮し始めるのには時間がかかるだろう。そして時間が経過してもなお、インフレは引き続きウクライナ侵攻の状況やサプライチェーン(供給網)の混乱、新型コロナのパンデミックに左右されることになる。