ロシア産エネルギーを運ぶ「灰色の船団」、壊滅的な石油流出への懸念高まる
怪しげな事業
国際エネルギー機関(IEA)によると、ロシアの石油輸出量はウクライナ侵攻前の水準に回復したものの、輸出から得られる収益は依然として大きく落ち込んだ状況にある。主要7カ国(G7)はロシア産石油や石油製品の価格に上限を設定したほか、買い手の減少で値引き交渉力が増しているとの事情もある。
クプラーのデータによると、中国によるロシア産石油の輸入は今年1~3月、前年同期比で38%増大。インドの輸入量は10倍近い水準に激増した。
ロシア船石油の取引がより複雑になるにつれ、欧米の船荷主の多くは手を引いた。現在はそこに怪しげなプレーヤーが参入し、「灰色の船団」の形成を促している状況だ。
英国を拠点とする市場情報会社、ベッセルズバリューによると、今年のタンカーの取引のうち、新設企業や非公開の買い手への石油タンカーの売却は約33%を占める。非公開の買い手への売却が全体に占める割合は2022年は10%、21年は4%にとどまっていた。
船を追跡する
CNNは宇宙テクノロジー企業マクサーの人工衛星画像を用い、ラコニア湾に停泊する2隻の石油タンカーを精査。クプラーと協力して、積み替えの詳しい様子を調べた。
2隻のトランスポンダーのデータによると、小さい方のタンカーは2月下旬にロシアのサンクトペテルブルクに寄港し、燃料油の貨物を積み込んだ。CNNはその後、同船が西欧沿岸をぐるりと回って地中海に入る様子を追跡。ここまで来たところで、同船は黒海沿岸にあるロシアの港湾ノボロシスクの方向から来た大型船に貨物を移し替えた。クプラー氏はこの船を「灰色の船団」の一員だとみている。
大型タンカーはそこからさらに航海を続け、欧州とアジアを結ぶ主要航路であるスエズ海峡を進んだ。
こうした取引が頻繁になるにつれ、専門家の間ではリスクへの懸念が高まっている。
IMOのケニー氏によると、一つの船から別の船に石油を積み替えること自体は珍しくないが、所有者が不明確で追跡が難しい「灰色の船団」の場合、最善の慣行に従っていない可能性もあるという。
ケニー氏は「船から船への積み替えで発生しうる問題は無数にある。積み替えに関する複雑な業界ルールがあるのはこのためだ」と述べ、流出の可能性に言及した。
カナダや日本、英国は、船がトランスポンダーを切っていれば、偶発的な衝突のリスクが高まると指摘。トランスポンダーの切断はほぼ常に違法であり、クプラー氏は2022年以降、こうした例を複数記録している。
「トランスポンダーを切っている船を目撃したり、そうした報告を受けたりすれば、私たちにとって憂慮すべき事態になる」(ケニー氏)