ロシア産エネルギーを運ぶ「灰色の船団」、壊滅的な石油流出への懸念高まる
ロンドン(CNN) ギリシャ・ペロポネソス半島の南東側にあるラコニア湾。海は鮮やかな青緑の水をたたえ、海岸地帯はウミガメの重要な営巣地だ。
ただ、ここは自然が美しいだけの場所ではない。一帯はロシアのエネルギー輸出品を運ぶタンカーの重要拠点にもなっている。
ロシアのウクライナ侵攻を受け、欧州連合(EU)は海上輸送による石油輸入の大半を禁止した。通常であればEUに向かう原油製品や石油精製品がアジアに行き先を変える中、積み荷は長旅に備え、ここラコニア湾でより大型の船に積み替えられる。
調査会社S&Pグローバルによると、ロシア産原油の船から船への積み替えはこの数カ月で急増し、今年1~3月には過去最多の水準に達した。ギリシャ付近では今年3月、暖房や輸送機関に使われるロシア産軽油350万バレル以上が船舶間で積み替えられた。これはS&Pグローバル調べで前年同月比の7倍を超える。
こうした積み替えは、ロシアのプーチン大統領が1年2カ月近く前にウクライナ全面侵攻を命じて以降、世界の石油市場が一変したことを浮き彫りにしている。これまで最大の買い手だった欧州の穴を中国やインド、トルコが埋めるなか、航海の距離は伸び、以前に比べ多くの船が必要になっている。S&Pグローバルのデータからは、航海途中での積み替えが増えている状況がうかがえる。
データ企業クプラーのシニアアナリスト、マシュー・ライト氏は「地中海における船舶間の積み替えが急増した」と指摘。「ロシアの港から小さめの船が現れ、より大きな船に積み荷を移し替えた後、大きな方の船はアジアに向かう」と説明する。
こうした船の多くは「灰色の船団」と呼ばれる船舶の一部だ。ライト氏のような業界関係者は、過去1年の間にロシア産石油の輸送を始めた船を指して、この言葉を使っている。船の所有者についてはほとんど知られておらず、ペーパーカンパニーの可能性もある。
「灰色の船団」は必ずしも不正を行っているわけではない。しかし、ライト氏のような西側のウォッチャーは、所有者が伏せられていることが多い船の登場で石油市場の透明性が薄れ、規制当局による監視が難しくなっていると指摘する。
オーストラリアとカナダ、米国は国際海事機関(IMO)に最近提出した書類で、トランスポンダーを切り、「姿を消して」、公海上で石油を積み替える船が増えていると指摘した。位置情報を送信するトランスポンダーの切断は制裁逃れの手段になりうると、これらの国々は主張する。
IMOの法務・渉外ディレクター、フレッド・ケニー氏はCNNに対し、海上積み替えへの警戒感がここ1年で高まったとの見方を示した。このような状況では衝突が起きやすく、壊滅的な石油流出事故の確率が高まる。
ケニー氏によると、船の所有者がはっきりしない場合、石油の海上積み替えに関する厳格な規則を順守しているかどうかの確認も難しくなるという。
「きれいな海での安全な輸送を確保する規制体制が損なわれているとの懸念が高まっている」(ケニー氏)