米国の男女賃金格差が20年間ほとんど縮まっていない理由

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米国の男女賃金格差がここ20年間縮まっていない理由とは/Adobe Stock

米国の男女賃金格差がここ20年間縮まっていない理由とは/Adobe Stock

ニューヨーク(CNN) 2022年に米国の女性は、男性の賃金1ドルに対して平均で約82セントしか得ていなかった。米調査機関ピュー研究所がフルタイムとパートタイムの従業員の時給中央値を分析した結果、明らかになった。

1982年には男性の賃金1ドルに対する女性の賃金は65セントだったので、それに比べると82セントは大幅な増加だが、2002年の80セントからはほとんど変わっていない。

ピュー研究所は「高等教育を受けたり、より賃金の高い職業に転職したり、労働市場で経験を積む女性が増えた結果、男女間の賃金格差は1982年から徐々に縮まった」と述べた上で、「しかし、学業成績では女性が男性を上回り続けているにもかかわらず、男女間の賃金格差は、2002年から男性1ドルに対し女性80~85セントの範囲で推移している」と指摘した。

平均は全容を反映していない

ここで注意すべきは、全体の平均を見るだけでは、年齢、人種、職業など、さまざまなグループに属する女性たちに何が起きているのかを完全に把握することはできないということだ。

まず年齢でみると、25~34歳の女性は年を重ねた後に比べ、男性と同等に近い賃金水準にある。

ピュー研究所によると、2007年以来、若い女性の賃金は男性の賃金1ドルに対し90セント前後で推移しているという。

「しかし、キャリアの開始時には男性との賃金格差がすぐに埋まりそうに見えても、年齢が上がるにつれ格差はむしろ拡大する傾向にある」(ピュー研究所)

同年代の男性に対する米国人女性の時給中央値の割合(緑は2000年に25~34歳、22年に47~56歳。オレンジは05年に25~34歳、22年に42~51歳。紫は10年に25~34歳、22年に37~46歳)
同年代の男性に対する米国人女性の時給中央値の割合(緑は2000年に25~34歳、22年に47~56歳。オレンジは05年に25~34歳、22年に42~51歳。紫は10年に25~34歳、22年に37~46歳)

また子どもの誕生も(男女間の賃金格差が生じる)要因の一つとピュー研究所は指摘する。例えば、子どもの誕生を機にキャリアを中断したり、週の労働時間を減らす女性もいる。

企業に勤務する35~44歳の父親の場合、家庭に子どもがいる時期と昇給の時期が重なるケースが多いが、企業で働く同年代の母親は子どもがいても給料は変わらない。

ピュー研究所によると、2022年に25〜34歳の母親が得た時給の中央値は同年代の父親の85%だったのに対し、家庭に子どもがいない女性の時給中央値は父親の97%だった。対照的に、会社に勤務する35〜44歳の女性の場合、子どもの有無にかかわらず、時給中央値は父親である男性の約80%だった。

また人種・民族別では、黒人女性の昨年の時給中央値は白人男性のわずか70%で、ヒスパニック系女性は65%だった。一方、白人女性は83%と差は小さく、アジア系女性は93%で差が最も小さかった。

白人男性に対する女性の時給中央値の割合(緑は白人、赤は黒人、黄色はヒスパニック、紫はアジア系)
白人男性に対する女性の時給中央値の割合(緑は白人、赤は黒人、黄色はヒスパニック、紫はアジア系)

「男女の賃金格差は、人種や民族によってある程度変わる。これは教育、経験、職業といった要因が異なるためだ。これらの要因は、女性全体の性別による賃金格差を広げている」とピュー研究所は指摘する。

またピュー研究所は、「性的少数者(LGBTQ)や障害者らに対する雇用差別に加え、さまざまな人種・民族に対しても雇用差別が行われている新たな証拠を研究者らが発見した」と述べた上で「雇用における差別は、労働者から労働の機会を奪うことにより、収入格差を生む可能性がある」と付け加えている。

最後に職業を見ると、個人介護やサービス業といった低賃金の職業では女性が圧倒的に多く、管理業務やSTEM(科学・技術・工学・数学)分野など、高給の仕事に就く女性は圧倒的に少ない。

いずれにせよ、男女の賃金格差は通常、何か一つの職業を選択し、男女間で測定可能な要因、例えば、教育、在職期間、労働時間などを考慮して調整した場合に最も小さくなる。

「しかし、格差は決して消えることはない」とピュー研究所の上級研究員であるラケシュ・コチャール氏は言う。

賃金格差が存続する理由

過去20年間、同一条件で比較しているにもかかわらず賃金格差が解消されないのは、他の要因が関係しているからだろう。

その一つと考えられるのが潜在的な差別だ。ピュー研究所が昨年10月に米国人を対象に男女の賃金格差に影響を与えると思われる要因を尋ねたところ、半数が、女性が雇用主から(男性と)異なる扱いを受けているのが主な理由だと回答した。また、そう回答した人の割合は、男性が37%だったのに対し、女性は61%に上った。

また賃金格差が根強く残る理由の説明に役立つ可能性のあるもう一つの要因として、大学の学位を持つ従業員に対する賃金プレミアムの減少が挙げられる。

これにより、現在、少なくとも学士号を持つ女性は男性よりも多いが(男性41%に対し女性は48%)、学士号自体の価値が薄れているのだ。

子どもの世話をするためにしばらく仕事を離れるなど、個々人の選択も引き続き男女間の賃金格差に影響を与えている。女性たちは文化的規範や、手頃な価格の保育所がないなどの社会的問題、さらには個人的な好みでそれらの選択を行っていると考えられる。

しかし今後、男女間の賃金格差を埋めるのは難しいかもしれない。

「今後、男女間の賃金格差を継続的に縮小できるか否かは、男性と女性がどのようにキャリアと家庭生活のバランスをとるかに影響を与える社会的、文化的規範や職場の柔軟性を今後どれだけ大きく変えられるかにかかっているかもしれない」とピュー研究所の研究員らは指摘する。

しかし、仮にそれが実現したとしても、格差解消の速度は期待するほど速くないかもしれない。その理由はピュー研究所の研究者らも指摘しているように「デンマークなど、家庭にやさしい政策を率先して実施してきた国々でも、子どもができた後の男女間の収入格差は大きく広がる傾向が続いている」からだ。

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