「棺おけ部屋」に120万人が暮らす香港 華やかな発展の陰で
マクさんは「食事は抜けばいいし、汚れもベッドの虫も窮屈さも我慢できるが、困るのは安全の問題。危ない目に何度も遭った。こんなすし詰めの野放し状態では、火事が起きれば全滅だ」と語った。当局によれば、マクさんの部屋があるような賃貸施設は認可制であり、防火・安全基準を守ることも義務付けられているという。
ソーシャルワーカーのセさんは、香港の棺おけ部屋は「不動産価格の高騰と、アジア最大ともいわれる貧富の差が重なった結果だ」と分析する。英不動産大手サビルスが今年実施した調査によると、香港の最高級物件の価格は1平方メートル当たり880万円を超える。1等地でなくてもロンドンや米ニューヨーク、モスクワなどの約4割増しの価格だという。
豊かになっていく香港の中で取り残されてしまったのが、棺おけ部屋の住人たちだ。セさんによると、こうした部屋は1平方メートル当たりの家賃が高層マンションなどより割高になっているうえ、過去1年で20%前後も値上がりした。香港の公共住宅は30万人の順番待ち。待ち時間は平均3年だが、棺おけ部屋で10年待ち続けるケースも少なくないという。
マクさんは「香港には2つの顔がある」と言う。ひとつは窓から見える華やかな都会、もうひとつは貧しい人々が転落していくこちら側の世界だ。マクさんは「当局は私のような貧困層を助けられないわけじゃない。ただ助けたくないだけ、問題を解決する気がないだけだ」と、不満をぶつけた。