赤ちゃんにも善悪がわかる!?
後天的に道徳思想に触れることによって、完璧とは言わないまでも、人は成長して善人に近づくことができる。実際、社会はこうした抽象的な道徳観念に基づいて形成されているのである。
最後に、私たちの研究の意義について述べよう。一つには、親の側で赤ちゃんや子どもに対する見方が変ってくるはずだ。生まれたばかりの赤ちゃんは道徳性のかけらもない、ちっちゃなサイコパスだと思われている節がある。ある種の赤ちゃんが遺伝的に救いようのない悪玉だと考える人もいる。
こうした冷笑的な見方は誤りだ。私たちは生まれながらにして道徳的なのであり、環境次第で、その先天的な道徳感覚が高まることも堕落することもありうる。
さらに、人間の先天的な道徳心理を理解することで、より良い社会の創造につながるだろう。優れた社会政策を立案するにあたっては、良きにつけ悪しきにつけ、人間の先天的な善悪の資質を知ることが欠かせない。これこそ「赤ちゃんの道徳学」が目指すところだ。
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本記事は、米エール大学のポール・ブルーム教授(心理学)によるものです。記事における意見や見解はすべてブルーム氏個人のものです。