「デザイナーベビー」に徐々に近づく生殖医療
その赤ちゃんは健康だった。だが、時代的な配慮から妊娠の経緯について聞かされていなかった女性は、夫の子どもでないとは知らず、25年後になって医者が真実を発表。この医者は人工授精を施したとして追放になった。生殖医療の技術を切り開いた他の医者らも、「自然に手を加えた」として職を失っている。
1940年代には、従来とは異なるさまざまな妊娠方法をめぐり議論が紛糾。当時のローマ法王ピウス12世は、「神の仕事を人間の手に委ねる」ものだと批判し、こうした選択肢をカトリック信者に禁じた。
だが、世論は最終的にこの技術を受け入れ、体外授精により妊娠する女性は大幅に増加した。体外授精から生まれた人は少なくとも5500万人に上る。
体外授精の技術も進化した。専門のクリニックが精子を冷凍保存し、疾患につながる要素の有無を検査する。着床前遺伝子診断を活用することで、医者はわずか8細胞期の段階の胚から、約100種類の遺伝性疾患の有無を調べることができる。
「こうした遺伝子検査は着実に進歩している。生命に危険をおよぼす病気を取り除ける確率が増えたほか、体外授精治療の有効性を高めることも可能だ」。こう話すのは米エモリー大学医学部のジェシカ・スペンサー博士だ。