高齢者の脳の健康維持、最適な睡眠時間の発見がカギか 米研究
(CNN) 高齢者の睡眠時間は脳の健康に影響を与える可能性があり、脳を守るには最適な睡眠時間を見つける必要があると示唆する論文が、30日付の米医学誌JAMAニューロロジーに発表された。
論文の著者らによると、睡眠の乱れは高齢期によく見られる現象で、認知機能の変化との関連が指摘されている。認知機能とは学習や思考、推論、問題解決、意思決定、想起、注意に使われる知的能力のことを指す。
また、加齢に伴う睡眠の変化は、アルツハイマー病やうつ病、心血管疾患の初期症状との関連も指摘されている。そこで著者らは今回、自己申告の睡眠時間や、人口動態および生活様式上の要因、認知機能、被験者の「アミロイドβ(ベータ)」と呼ばれるたんぱく質のレベルの関係を調べた。
論文の筆頭著者を務めた米スタンフォード大の博士研究員ジョー・ワイナー氏によると、調査の結果、自己申告の睡眠時間が短い(6時間以内と定義)被験者ではアミロイドβレベルが高く、認知症リスクが「大幅に上昇する」ことが判明した。
比較対象となったのは、通常の睡眠時間(7~8時間と定義)を申告した被験者だった。
睡眠の不十分な高齢者はまた、認知能力の評価や軽い認知症の特定に使われるテストでも、若干もしくは大幅に悪い結果が出た。評価対象となる認知能力は見当識や注意力、記憶力、言語能力、視空間能力など。
一方、睡眠の取り過ぎも実行機能の低下と関連があったが、こうした人の間ではアミロイドβの水準に上昇は見られなかった。長い睡眠時間(9時間以上)を申告した被験者は通常の睡眠時間の人に比べ、数字と記号を正しく一致させる能力を測る「数字記号置き換え検査」でやや低いスコアが出た。
ワイナー氏はメールで、研究結果のポイントとして「高齢になっても健康な睡眠を保つことが重要だ」と説明。さらに「睡眠時間の少なすぎる人も多すぎる人も、体格指数(BMI)の上昇やうつ症状の増加が見られた」と述べ、今回の研究結果からは、短い睡眠と長い睡眠では別々の病気が絡んでいる可能性がうかがえると指摘した。
ワイナー氏によると、アミロイドβは「通常の脳活動で作られるたんぱく質だが、その機能についてはまだ良く分かっていない」という。
アミロイドβは、アルツハイマー病の進行で最初に見つかるマーカーのひとつ。アルツハイマー病では脳の全域でアミロイドβが蓄積し始め、互いにくっついて「プラーク(斑)」を形成する。年齢を重ねるにつれアミロイド斑が現れやすくなるものの、脳内にアミロイドがたまった状態でも多くの人は健康なままだという。
アルツハイマー病協会によれば、同病になると情報を取得、処理、保存する脳細胞が退化して死滅する。死滅の原因に関する有力理論のひとつに「アミロイド仮説」があり、アミロイドβの蓄積によって脳細胞間のやり取りが阻害され、最終的に細胞が死に至る可能性を示唆している。
これまでの研究では、「睡眠は脳内でのアミロイド産生の制限や、アミロイドを取り除く排出システムの支援に役立つ可能性がある」と示唆されていた。こう指摘するのは、英アルツハイマー・リサーチUKの広報部門トップ、ローラ・フィリップス氏だ。同団体は今回の研究に関わっていない。
アミロイドβはアルツハイマー病の明らかな症状が現れる何年も前から蓄積し始めると、フィリップス氏は指摘。「このため、睡眠の問題やアルツハイマーのリスクを研究する際には原因と結果を分けるのが難しくなる。一時点のデータのみを調べた場合はなおさらだ」と語る。
今回の研究は平均71.3歳の4417人を対象に行われた。被験者は大半が白人で、在住国は米国やカナダ、オーストラリア、日本だった。